何度声をかけても話を聞いてもらえない。同じ言葉でも、ほかの先生から言われると動ける。注意すると強く反発され、支援しようとするとその場から離れてしまう——。一生懸命に関わっているほど、「信頼関係ができていないのだろうか」と戸惑うことがあります。
けれども、こうした姿は、先生や支援者が努力していないからでも、子どもがわざと困らせようとしているからでもありません。その場の言葉だけを見るのではなく、子どもがこれまで大人との間でどのような経験をし、今、その人との関係をどのように受け取っているかまで含めて整理する必要があります。
子どもとの信頼関係は、言うことを聞いてもらうための手段ではありません。「この人なら大丈夫」「この人とならやってみよう」「失敗しても大丈夫」「困ったら助けてもらえる」と思える経験を、日々の関わりの中で少しずつ積み重ねていくことです。本記事では、先生・支援者の立場を中心に、保護者の方にも共通する発達支援の視点を考えます。
ゆうた先生関係性は、子どもに言うことを聞いてもらうための技術ではありません。「この人なら大丈夫」と思える小さな経験を、今日の関わりから一つずつ積み重ねていきましょう。
同じ言葉でも、伝える人によって反応が違うことがある
「片づけよう」「次の活動に移ろう」と同じ内容を伝えていても、相手によって子どもの反応が変わることがあります。これは、単純な好き・嫌いや、「なめられている」という説明だけでは捉えきれません。
子どもは、その人との間で起きた一回一回の出来事を経験しています。例えば、次のような経験です。
- 話したことを分かってもらえた
- 考える前に急かされた
- 失敗したとき、結果だけを注意された
- 困ったときに助けてもらえた
- 自分でできるまで待ってもらえた
- 断った理由を聞いてもらえた
どれか一つの出来事だけで関係性が決まるわけではありません。ただ、こうした経験の積み重ねによって、同じ声かけでも「安心して受け取れる言葉」になることもあれば、「またできないと言われるかもしれない」と身構えるきっかけになることもあります。
相手による反応の違いに気づいたときは、子どもを評価する前に、「誰が、いつ、どの距離から、どのように伝えたか」「その直前と直後に何があったか」を比べてみます。先生の言うことを聞かないように見える場面にも、理解のしやすさ、活動を切り替える難しさ、失敗への不安、助けの求めにくさなど、いくつもの可能性があります。
ラポールは、言うことを聞かせるためのテクニックではない
ラポールは、一般に人と人との間にある安心感や信頼のつながりを表す言葉です。子どもとのラポールを「仲良くなれば指示に従ってもらえる」「ほめれば言うことを聞く」といった技術として扱うと、関係づくりの目的が大人の都合に傾きやすくなります。
大切なのは、子どもがその人の言葉を安心して受け取れること、分からないときや難しいときに助けを求められること、失敗や拒否があっても関係が壊れないと感じられることです。信頼関係があるからいつも応じられる、という単純なものでもありません。疲れ、見通しの持ちにくさ、感覚的な負担、活動の難しさなどが重なれば、安心できる相手の声かけにも応じにくい日はあります。
そのため、反応だけを見て「ラポールがない」と判断するのではなく、子どもがどの場面なら気持ちを伝えられるか、どのような助け方なら受け取りやすいかを具体的に見ていくことが必要です。
見直したい3つの視点
1.これまでの経験
まず考えたいのは、その子が大人との関わりの中でどのような経験をしてきたかです。できなかったときに繰り返し指摘された、言葉で説明する前に活動を進められた、反対に、困ったときに一緒に方法を探してもらえたなど、経験は一人ひとり異なります。
ただし、確認できない過去を「きっと強く叱られてきたのだろう」などと断定することはできません。本人の言葉、保護者や関係者から共有された情報、実際に観察した事実を分けて整理します。分からないことは分からないままにし、今の支援に必要な仮説として慎重に扱うことが大切です。
2.今の関係性
「信頼されているか」という抽象的な評価ではなく、観察できる姿から関係性を捉えます。
- 子どもから自分へ話しかけることがあるか
- 困ったときに助けを求められるか
- 失敗や間違いを見せられるか
- 一緒に活動することを受け入れられるか
- 「今はしない」と断ることができるか
- 断ったときにも、気持ちを受け止めてもらえると感じられているか
話しかける回数が少なくても、必要なときに近くへ来る、表情で確認する、好きなものを見せるといった形でつながりを求めていることがあります。言葉だけに限定せず、その子なりのサインを職員間で共有すると、関係性の変化を捉えやすくなります。
3.これから積み重ねる経験
過去のネガティブな経験を消すことはできません。一方で、これからの関わりの中で、新しい安心、成功、肯定的な経験を積み重ねていくことはできます。
- 気持ちを伝えたら分かってもらえた
- 難しいときに待ってもらえた
- 困ったときに手伝ってもらえた
- 一緒に取り組んだらできた
- 失敗してもやり直せた
- 自分で選んだ方法を試せた
大きな成功を用意する必要はありません。返事を待つ、選択肢を二つにする、助けを求める合図を一緒に決めるなど、小さな調整が経験を変えます。支援者が「うまくできたか」だけでなく、「安心して参加できたか」「自分の気持ちを表せたか」にも目を向けることで、次の関わりを考えやすくなります。
無料オンライン講座で、経験と関係性をさらに具体的に考えます
2026年9月27日(日)13:00〜14:00
「支援が届かない」と感じたときに見直したい“経験と関係性”
〜ラポールから「この人なら大丈夫」を育てる〜
今回の無料オンライン講座では、「これまでの経験」「今の関係性」「これから積み重ねる経験」の3つから、子どもに支援が届きやすくなる関わり方を、具体的なケースとともに考えます。先生、支援者、保育者を中心とした内容ですが、保護者の方も参加できます。
ケースで考える|声をかけると反発する子
以下は、複数の一般的な場面をもとに作成した架空事例です。実在する子どもや施設の事例ではありません。
1.観察された事実
活動の切り替えで、先生が近くから「プリントを始めよう」と声をかけると、Aさんは「やらない」と大きな声で答え、机から離れることがあります。一方、別の支援者が少し離れた場所から予定表を示し、「今始める・3分後に始める」の二つを見せると、3分後を選んで席に戻る日があります。課題が短い日や、最初の一問を一緒に確認した日は、取り組みが続きやすい様子も見られました。
2.大人が最初に考えやすい解釈
反発が続くと、「言うことを聞かない」「人を選んでいる」「やればできるのに、やろうとしない」と考えたくなることがあります。しかし、これは観察された事実ではなく、大人側の解釈です。まず事実と解釈を分けることで、ほかの見方を検討できる余地が生まれます。
3.ほかに考えられる背景
Aさんにとって、突然近くから声をかけられることが負担なのかもしれません。活動を終える準備ができていない、課題で失敗する不安がある、何から始めるか分からない、助けてほしいと伝える方法が定まっていない可能性もあります。また、過去に「始めよう」と言われた後、難しい課題を一人で進めることになった経験が、声かけへの身構えにつながっているかもしれません。ただし、どれも現時点では仮説です。場面を変えながら観察し、本人にも確認していきます。
4.関係性の中で見落としやすい点
その先生とのやり取りが、指示や注意の場面に偏っていないかを振り返ります。Aさんから好きなことを話す時間はあるか、断ったときに理由を聞いてもらえた経験はあるか、できない姿を見せても助けを求められるか。先生に悪意がなくても、「この人が来ると何かをやるよう言われる」という経験が多くなれば、声をかけられた時点で身構えることがあります。
5.明日から試せる小さな関わり
- 活動を求めない短いやり取りを一日の中につくる
- 切り替えの少し前に、予定表や合図で予告する
- 近づく前に名前を呼び、受け取りやすい距離を確かめる
- 「今・3分後」「一人で・一緒に」など、実行できる選択肢を示す
- 「手伝って」「最初だけ一緒に」など、助けを求める言葉やカードを決める
- 断りをすぐに否定せず、「今は難しいんだね」と受け止めて次の相談につなげる
すべてを一度に変えると、どの工夫が影響したか分かりにくくなります。まず一つを試し、場面、声かけ、子どもの反応を簡潔に記録します。
6.支援後に確認したい変化
確認したいのは、指示に従った回数だけではありません。「あとで」「手伝って」と伝えられたか、その場から離れずに相談できたか、失敗した後に戻れたか、自分から先生へ話しかける場面が増えたかも見ます。取り組み始めるまでの時間や、受け入れやすかった距離・伝え方を記録すると、Aさんに合う支援をチームで共有しやすくなります。
関係性を育てるために、明日からできること
- □ 指示や注意以外のやり取りを増やす
- □ 子どもの好きなことや得意なことを一緒に楽しむ
- □ できなかった結果だけでなく、取り組もうとした過程を見る
- □ 子どもが断った理由を考える
- □ 困ったときに助けを求めやすい言葉を決める
- □ 失敗してもやり直せることを伝える
- □ 約束したことを大人側も守る
- □ うまくいった関わりを記録して、ほかの職員と共有する
チェックの数を増やすことが目的ではありません。子どもの様子と現場の状況に合わせ、続けられるものを一つ選びます。保護者と共有するときも、「家庭でこうしてください」と求めるのではなく、園や学校、事業所で分かったことを伝え、家庭で安心しやすい関わりを教えてもらう姿勢が大切です。
「支援が届かない」と感じたときこそ、誰かを責めずに見直す
支援が届かないと感じるとき、先生や支援者の努力不足、保護者の関わり方、子どもの性格だけに原因を求めても、次の支援は見えにくくなります。伝え方、環境、これまでの経験、現在の関係性を分けて整理すると、改善できるところを見つけやすくなります。
例えば、「声をかけても動かなかった」という事実に対して、声をかける前の見通し、課題の量、周囲の刺激、伝える距離、助けを求める方法、その人との普段のやり取りを一つずつ確認します。すぐに答えが出ないこともありますが、仮説を小さく試し、子どもの変化から考え直すことができます。
関係性を育てることは、子どもを大人の思いどおりに動かすことではありません。気持ちを伝えても大丈夫、分からないと言っても大丈夫、困ったら一緒に方法を探せる——そう思える経験を積み重ねることです。その土台があることで、子どもと大人が同じ課題に向き合いやすくなる場面があります。
講師紹介
ゆうた先生|土屋勇太
発達支援・特別支援教育の実践家
元特別支援学校教諭。東京学芸大学大学院・特別支援教育専攻修了。現在は児童発達支援・放課後等デイサービスを運営しながら、保育所等訪問支援を通して園・学校との連携に携わっています。「子どもの行動には理由がある」を大切に、子ども理解を明日の支援に変える情報を発信しています。
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2026年9月27日(日)13:00〜14:00|無料|オンライン(Zoom)
「支援が届かない」と感じたときに見直したい“経験と関係性”
〜ラポールから「この人なら大丈夫」を育てる〜
「これまでの経験」「今の関係性」「これから積み重ねる経験」の3つを、架空のケースを通して具体的に整理します。先生、支援者、保育者を中心とした内容ですが、保護者の方も参加できます。










