子ども同士のトラブルが起きたとき、
「ほら、ちゃんとごめんなさいは?」
と声をかけることがあります。
友達を押してしまったり、使っているおもちゃを取ってしまったりしたとき、相手に謝ることは大切です。
しかし、私はときどき考えます。
「ごめんなさい」と言うことができたら、それで問題は解決したのでしょうか。
言葉では謝ったけれど、何がいけなかったのか分かっていないかもしれません。
相手がどう感じたのか、まだ理解できていないかもしれません。
また、謝られた側も、すぐに気持ちを切り替えられるとは限りません。
私は、トラブルの後に大切なのは、謝罪の言葉を言わせることだけではないと考えています。
何が起きたのか。
自分はどう感じたのか。
相手はどう感じたのか。
そして、次にどうすればよいのか。
こうしたことを少しずつ理解し、関係を調整する経験につなげたいと思っています。
1.まず大切なのは、謝罪よりも安全の確保
トラブルが起きたとき、最初に確認するのは安全です。
誰かがけがをしていないか。
危険な行動が続いていないか。
子どもたちが落ち着ける状態にあるか。
こうしたことを確認します。
相手に手が出ている場合には、まず行動を止め、必要な距離を確保します。
けががあれば、状態に応じた応急対応や必要な連絡を行います。
その場で謝罪を求めることより、安全を確保することが先です。
また、被害を受けた子どもに対して、痛みや怖さを受け止めることも欠かせません。
「大丈夫だった?」
「痛かったところはある?」
といった声かけをしながら、まず安心できる状態をつくりたいところです。
安全を確保した後で、何が起きたのかを整理していきます。
2.興奮しているときに、すぐ話し合わせない
トラブルの直後は、子どもが強く怒ったり、泣いたり、混乱したりしていることがあります。
その状態で、
「何がいけなかったの?」
「どうしてそんなことをしたの?」
と質問しても、うまく答えられないかもしれません。
今起きたことを整理すること自体が難しくなっている可能性があります。
私は、そのようなときに無理に話を進める必要はないと考えています。
まずは落ち着けるように関わり、その子が話せる状態になるのを待つ。
必要なら少し場所を変えたり、静かに過ごしたりする方法もあります。
ただし、落ち着くまで放っておけばよいという意味ではありません。
安全を見守りながら、その子に必要な援助を行います。
3.事実と気持ちを分けて整理する
子どもが落ち着いてきたら、私は、何が起きたのかという事実と、それぞれの気持ちを分けて整理することが大切だと考えています。
例えば、おもちゃの取り合いが起きた場面を考えてみます。
※以下は説明のための架空の例です。
Aさんが遊んでいたおもちゃを、Bさんが取ろうとしました。
Aさんはおもちゃを離したくなくて、Bさんを押してしまいました。
この場合、「押したこと」だけを見ると、Aさんに注意することになるかもしれません。
もちろん、押す行動は止める必要があります。
しかし、それだけでは何が起きたのかを十分に理解できません。
Aさんは遊び続けたかったのかもしれません。
Bさんは一緒に遊びたかったのかもしれません。
ここで大人は、決めつけずに確認します。
「まだ使っていたかったのかな?」
「一緒に遊びたかったのかな?」
それぞれの気持ちを聞きながら、出来事を整理します。
大人が正解を先に決めるのではなく、子どもたちの話を聞くことが大切です。
大人が間に入るタイミングについては、子ども同士のトラブルをゼロにすることが、本当に良い支援なのかで詳しくお伝えしています。
4.「ごめんなさい」が言えない理由も考える
子どもが謝らないとき、大人は「悪いと思っていないのではないか」と感じることがあります。
しかし、必ずしもそうとは限りません。
自分の行動をまだ整理できていないのかもしれません。
相手の気持ちが分からないのかもしれません。
言葉にすることが難しいのかもしれません。
あるいは、自分も嫌な思いをしたと感じていて、納得できていない可能性もあります。
私は、「ごめんなさい」と言わないことだけに注目するのではなく、その背景も考えたいと思っています。
ただし、謝らない理由を理解することと、相手を傷つけた行動を認めることは別です。
「押すと相手が痛い思いをするから、押すことは止めようね」
そのように、必要なことは具体的に伝えます。
行動を止めることと、子どもの気持ちを理解することは、両立できると考えています。
5.相手の気持ちを、大人が決めつけない
トラブルの後には、
「相手は悲しかったんだよ」
「嫌だったに決まっているでしょう」
と伝えることもあります。
しかし、私は相手の気持ちを大人が決めつけないようにしたいと思っています。
同じ出来事でも、どう感じるかは人によって違います。
例えば、相手の子どもに、
「そのとき、どんな気持ちだった?」
と聞いてみます。
うまく言葉にできない場合には、
「びっくりした?」
「嫌だった?」
など、確認しながら言葉を補う方法もあります。
ただし、答えを誘導しないように注意が必要です。
また、被害を受けた子どもが、その場で気持ちを話したくない場合もあります。
そのときには無理に話させず、本人の意思を尊重します。
大切なのは、相手の気持ちを形式的に覚えさせることではなく、相手にも自分とは違う気持ちがあると知る機会をつくることだと思っています。
6.謝ること以外にも、関係を修復する方法がある
「ごめんなさい」という言葉には大切な意味があります。
自分の行動を振り返り、相手に気持ちを伝える方法の一つだからです。
一方で、謝罪の言葉だけが関係の修復ではありません。
例えば、壊してしまった物を一緒に直す。
使っていた物を返す。
相手が嫌だったことを理解して、次は同じことをしないようにする。
本人が希望するなら、自分の言葉や別の方法で気持ちを伝える。
こうした方法も考えられます。
もちろん、何をすればよいかは、出来事の内容や相手の希望によって異なります。
謝ったからといって、相手がすぐに許さなければならないわけでもありません。
私は、謝罪を「言えたかどうか」だけで評価するのではなく、その後にどのような行動を考えられたかにも目を向けたいと思っています。
7.次に同じことが起きたら、どうすればよいか
トラブルの後には、過去の行動を振り返るだけでなく、次の行動を一緒に考えることも大切です。
例えば、友達が使っているおもちゃを使いたくなった場合。
「貸して」と伝える。
「終わったら教えて」とお願いする。
別のおもちゃを使って待つ。
大人に助けを求める。
こうした方法が考えられます。
ただし、言葉で一度説明しただけで、次に必ず実行できるようになるとは限りません。
その子の発達段階や理解の程度に合わせて、落ち着いているときに練習することも必要です。
私は、子どもが困った場面に直面したとき、より適切な伝え方や行動を選べるよう支援することが大切だと考えています。
そのためには、大人が「何をしてはいけないか」だけでなく、「どうすればよいか」まで具体的に伝える必要があります。
8.無理に仲直りさせないことも大切
トラブルの後、子ども同士を向かい合わせて、
「はい、仲直り」
とすることがあります。
しかし、本人たちはまだ納得していないかもしれません。
謝られた側が、相手とすぐに遊びたいと思っているとも限りません。
私は、仲直りした形をつくることだけを目的にはしたくありません。
相手と少し距離を置きたいという気持ちも尊重する。
話せるようになったら、必要に応じて話す機会を設ける。
そのような関わり方も大切だと思っています。
ただし、重大な暴力や繰り返される嫌がらせがある場合には、単なる子ども同士のけんかとして扱ってはいけません。
安全確保、被害を受けた子どもの保護、保護者や関係者との共有、再発防止の検討など、状況に応じた対応が必要です。
9.支援者が振り返りたい5つのこと
トラブルの後、支援者は次のことを確認してみるとよいと思います。
① 安全は確保できたか
けがや危険がなくなり、安心して過ごせる状態になったか。
② 事実を整理できたか
大人の思い込みだけで判断せず、何が起きたのかを確認したか。
③ それぞれの気持ちを確認できたか
子どもの気持ちを決めつけず、本人の表現を尊重できたか。
④ 相手への影響と必要な対応を考えたか
謝罪の言葉だけでなく、相手の安全や気持ちを大切にできたか。
⑤ 次の行動を具体的に考えられたか
同じ場面で使える伝え方や、必要な援助を整理できたか。
すべてをその場で終わらせる必要はありません。
子どもの状態に合わせて、時間を分けて考えることもできます。
まとめ|謝罪の言葉だけで、支援を終わらせない
子ども同士のトラブルが起きたとき、謝ることは大切な行動の一つです。
しかし、ただ「ごめんなさい」と言えたことだけで、問題が解決したとは限りません。
安全を確保する。
何が起きたのかを整理する。
自分と相手の気持ちを理解する。
必要な対応を考える。
そして、次にどう関わればよいかを学んでいく。
私は、こうした過程を大切にしたいと思っています。
子ども同士のトラブルは、相手を傷つけたり、本人が傷ついたりすることもあるため、決して軽く扱ってよいものではありません。
だからこそ、大人が必要な支援を行いながら、子どもが人間関係を学べる機会につなげていきたいですね。
「ごめんなさい」と言わせる前に、今、この子たちにはどのような支援が必要なのだろうか。
そんな視点で考えてみることも、大切だと思っています。
子どもの行動を、もう少し丁寧に理解したい方へ
ゆうた先生の発達ラボでは、子どもの行動の背景や、園・学校・家庭・療育で使える支援の工夫を紹介しています。困っていることだけでなく、今できていることや、次の一歩を一緒に考えるためのヒントを探してみてください。

