「困ったら、先生に言ってね」
そう伝えているのに、実際に困った場面になると、何も言わずに固まる。その場から離れる。活動を拒む。怒ったり、物を投げたりしてから、ようやく困っていたことが分かる。
先生や支援者としては、「言ってくれれば助けられたのに」と感じることがあるかもしれません。
しかし、「困った」と言えないことは、「困っていない」「助けてもらう気がない」という意味ではありません。
子どもが助けを求めるためには、自分の困りごとに気づくこと、それを伝える方法があること、そして、伝えたときに受け止めてもらえると感じられることが大切です。
この記事では、言葉だけに頼らず、子どもが助けを求めやすくなる関わり方を整理します。
「困った」と言えない=困っていない、ではない
困っていることを言葉にするには、いくつもの力が必要です。
たとえば、分からなくなったことに自分で気づくこと。気持ちや状況を表す言葉を思い出すこと。誰に伝えればよいか判断すること。相手が聞いてくれるまで待つこと。
普段ならできる子でも、不安や緊張が強いとき、集団の中で急いでいるとき、失敗したと感じているときには、これらを同時に行うことが難しくなる場合があります。
また、過去に助けを求めたとき、「それくらい自分でやって」「さっき説明したでしょう」と言われた経験があれば、伝えること自体をためらうことも考えられます。
そのため、大人が最初に確認したいのは、「なぜ言わないのか」ではなく、「どの段階で難しくなっているのか」です。
助けを求めるために必要な3つの要素
1.自分が困っていることに気づく
「分からない」「難しい」「このままでは進めない」と、自分の状態に気づく段階です。手が止まっていても、本人は何に困っているのか整理できていないことがあります。
2.伝えられる方法がある
「困った」と話すことだけが、伝える方法ではありません。カードを見せる、手を挙げる、決めたサインを出す、指さす、「手伝って」と一言だけ言うなど、その子が使いやすい方法を用意できます。
3.伝えても大丈夫だと思える
伝え方が分かっていても、「怒られそう」「迷惑かもしれない」「また失敗したと思われるかもしれない」と感じていれば、助けを求めにくくなります。助けを求める力は、教え方だけでなく、伝えた後にどのような経験をしたかによっても育っていきます。
大人が見逃しやすい「言葉以外のSOS」
子どものSOSは、分かりやすい言葉で表れるとは限りません。たとえば、次のような姿の中に、困りごとが隠れている場合があります。
- 課題の途中で手が止まる
- 周囲を何度も見回す
- 「できない」「もうやらない」と繰り返す
- ふざけたり、別の話を始めたりする
- トイレや別の場所へ行こうとする
- 急に怒る、泣く、物を強く扱う
- 大人の近くには来るが、何も言わない
ただし、同じ行動でも背景は一人ひとり異なります。
「手が止まったから助けを求めている」と決めつけるのではなく、どの場面で起きたか、その前に何があったか、声をかけた後にどう変化したかを見ながら考えることが大切です。
助けを求められる関係を育てる4つのステップ
1.困っているサインを一緒に見つける
まずは、大人が子どもの様子を短く言葉にします。
「手が止まったね。難しいところがある?」「何から始めるか迷っているかな?」「一人で考える? 一緒に見る?」
大人が原因を決めるのではなく、今の状態を伝え、子どもが選べる形にします。
2.使いやすい伝え方を、落ち着いているときに決める
困っている最中に、新しい伝え方を覚えるのは簡単ではありません。落ち着いている時間に、「分からないときは、このカードを出そう」「先生を呼ぶときは、机の端にこの印を置こう」など、使いやすい方法を一緒に決めます。
話すことが難しい子には、カード、指さし、身振りなども立派な意思表示です。最初から多くの方法を求めず、本人が使えそうな方法を一つか二つに絞ると、試しやすくなります。
3.伝えてくれたら、まず受け止める
子どもがサインを出したときは、「教えてくれてありがとう」「困ったことが分かったよ」と受け止めます。
その後で、「最初だけ一緒にする」「二つから選ぶ」「見本を見る」など、必要な分だけ支援します。助けを求めた直後に理由を細かく聞いたり、伝え方を訂正したりすると、次に伝えるハードルが上がることがあります。まずは「伝えたら助けてもらえた」という経験をつくることを優先します。
4.うまくいった経験を振り返り、少しずつ広げる
落ち着いた後に、「カードで教えてくれたから、一緒に始められたね」と具体的に振り返ります。
できたことを「えらい」で終わらせず、どの行動が役立ったのかを伝えることで、次の場面でも使いやすくなります。一人の先生との間で使えるようになったら、別の先生、違う活動、家庭や学校などへ少しずつ広げていきます。
避けたい対応
助けを求める力を育てようとするとき、次のような対応には注意が必要です。
- 「ちゃんと言わないと分からない」と責める
- 困っている最中に理由を何度も尋ねる
- 大人がすべて先回りして解決する
- 助けを求めたことを、後から注意の材料にする
- 大人によって受け止め方が大きく異なる
何でも手伝えばよいわけではありません。一方で、「自分で言えるまで待つ」だけでも、必要な経験を積めないことがあります。子どもが自分でできる部分を残しながら、助けを求めるための足場をつくることがポイントです。
チームで共有したいこと
家庭、園、学校、事業所で伝え方が違うと、子どもは迷いやすくなります。支援者間では、少なくとも次の点を共有しておくと、関わりをそろえやすくなります。
- 困ったときに見られやすいサイン
- 本人が使いやすい伝え方
- サインを受け取ったときの応じ方
- どの程度まで手伝うか
- うまくいった場面と、難しかった場面
「助けを求められなかった」と評価するだけでなく、「どの条件なら伝えられたか」を記録することが、次の支援につながります。
助けを求めることは、依存とは違う
「すぐに助けを求めるようになると、自分で考えなくなるのでは」と心配されることがあります。
しかし、自立とは、すべてを一人でできることだけではありません。自分でできることと難しいことを分け、必要なときに、必要な相手へ、必要な方法で助けを求めることも大切な力です。
目指したいのは、何でも大人に任せることではなく、「まず試す」「難しければ伝える」「助けを借りてもう一度取り組む」という流れを、その子に合った形で育てることです。
まとめ
子どもが「困った」と言えないとき、言葉だけを練習すれば解決するとは限りません。大切なのは、次の4点です。
- 言葉以外のSOSにも気づくこと
- 使いやすい伝え方を準備すること
- 伝えたときに受け止めてもらえる経験を積むこと
- うまくいった条件を、関わる人たちで共有すること
助けを求める力は、一度の声かけで完成するものではありません。
「困ったときに気づいてもらえた」「伝えたら受け止めてもらえた」「助けてもらいながら、もう一度取り組めた」。こうした小さな経験を、毎日の関わりの中で積み重ねていきます。
子どもとの信頼関係を、これまでの経験・今の関係性・これから積み重ねる経験から整理したい方は、関連記事「子どもとの信頼関係はどう育てる?」もあわせてご覧ください。
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※本稿は一般的な支援上の視点を整理したものです。個別の判断は、子どもの状態や環境、関係者間の情報を踏まえて行ってください。

