「片づけよう」と声をかけると、さっきまで楽しそうだった子どもの表情が変わる。
自由遊びから片づけへ。好きな活動から課題へ。教室から別の場所へ。動画やゲームを終えて、次の予定へ。
こうした場面でなかなか動き出せないと、私たちはつい、
「この子は切り替えが苦手だから」
と捉えたくなることがあります。
しかし、「切り替えが苦手」という言葉だけでは、次の支援は見えてきません。
その子は、いつ終わるのか分からないのでしょうか。好きな活動を終える心の準備ができていないのでしょうか。それとも、次に待っている活動に不安や負担を感じているのでしょうか。
切り替えを支えるためには、動かなかった瞬間だけでなく、その前後を見ることが大切です。
この記事で伝えたいこと
切り替えは、体を次の場所へ移すことだけではありません。今の活動を終える準備と次の見通しをつくり、本人の気持ちを受け止めながら、次の活動に入り始めるところまでを支えていきます。
ゆうた先生「切り替えられたか」ではなく、「どこまでなら次へ向かえたか」を見てみましょう。大人と一緒に移れたことも、次の活動を一つ始められたことも、大切な前進です。
体が移れば、「切り替えられた」と言えるのか
私は、子どもが次の場所へ移ったという結果だけで、「切り替えられた」とは言い切れないと思っています。
体は次の場所にあっても、気持ちは前の遊びに残っていることがあるからです。席には着いたものの、前の活動を繰り返し気にしている。次にすることが分からず、その場で止まっている。移動はできたけれど、次の活動にはまだ入りにくい。そうした姿もあります。
切り替えられたかを見るとき、私は移動できたかだけではなく、次のようなことも大切にしています。
- 「もっとやりたい」と自分の気持ちを表現できたか
- 終わりと、その後の流れが分かったか
- 必要な支援を受けながら、次へ注意や行動を向け始められたか
- 次の活動の最初の一歩に参加できたか
ここでいう「納得」は、嫌な気持ちが完全になくなることでも、本人が同意するまで予定を止め続けることでもありません。
「もっとやりたかった」という気持ちが残っていても構いません。その気持ちを表現し、終わりと次の流れを本人なりに受け止め、大人の支援を受けながら次へ向かえることも、切り替えに向かう大切な一歩です。
子どもの内面を、大人が表情や行動だけで断定することはできません。だからこそ、「すぐに一人で従えたか」だけで評価せず、本人の言葉や表情、動き、次の活動への参加を丁寧に見ていきたいと思います。
「切り替えが苦手」の前後で、何が起きているか
切り替えは、一つの動作ではありません。少なくとも、次の三つの場面に分けて考えられます。
- 今の活動を終える
- 終わった後の流れを理解し、移動する
- 次の活動に入り始める
例えば、自由遊びから課題へ移れないときも、「遊びを終えられない」のか、「次に何をするか分からない」のか、「課題そのものが難しくて始められない」のかで、必要な支援は変わります。
切り替えにくさの背景としては、次のような可能性が考えられます。
- いつ、どのように終わるのか見通しを持てない
- 好きな活動をやめるための心の準備が間に合わない
- 今の活動に区切りがなく、途中で奪われたように感じる
- 次に何をするのか分からない
- 次の活動に不安や負担感がある
- 疲れ、空腹、周囲の音や動きなどで余裕が少なくなっている
「分かっていること」と「実際に動けること」の違いは、「分かっているのに、なぜ動かない?」でも詳しく整理しています。この記事では、特に「活動を終える準備から、次の活動へ入り始めるまで」に絞って考えます。
1.その子に伝わる形で、終わりを予告する
私の実践では、切り替えの前に予告することが役立つ場面が多くありました。
ただし、予告は「あと5分」と一度言えば終わりではありません。終わりが近づく過程を、子どもと一緒にたどる支援だと考えています。
| 予告の方法 | 合いやすい場面 | 気をつけたいこと |
|---|---|---|
| 「あと5分」 | 時間の長さをある程度理解している | 「5分」が具体的な見通しにならない子もいる |
| タイマー | 残り時間を表示や音で確認しやすい | 音や数字の減少が不安につながる子もいる |
| 「あと3回」 | 回数を数えやすく、区切りのある活動 | 3回と伝えた後も「あと2回」「次が最後」と知らせる |
| 予定表 | 今・終わり・次の流れを見て確かめられる | 次の活動の負担が大きければ、見えても動けないことがある |
例えば、ボール遊びなら「あと3回投げたら終わり」と伝え、実際に「あと2回」「あと1回」と一緒に数えます。「あと1回」を、その一回が終わる前に伝えておくことも大切です。
ブロックや制作のように回数で区切りにくい活動なら、「この屋根をつけたら終わり」「この一つを貼ったら写真を撮ろう」など、目で確認できる終点を決めます。
予告の方法は、子どもの理解の仕方と活動の性質に合わせます。タイマーが合わないから、切り替えられない子なのではありません。その子にとって、タイマーが見通しをつくる道具になっていたかを確かめます。
2.予定表で、「終わった後」まで一緒に確かめる
私の経験では、予定表は比較的多くの子どもに役立つ印象がありました。
予定表は、大人の指示を見える形にするだけの道具ではありません。次の三つをつなぐために使います。
- 今していること
- どこで終わるか
- 終わった後に何をするか
例えば、自由遊びから片づけへ移る前に、予定表を一緒に見ながら、
「今は遊び。あと一回やったら片づけ。その後はおやつだね」
と確認します。子どもによっては、「この後は何をする?」と聞き、次の活動を自分で言ってもらうと動きやすくなることもありました。言葉で答えることが負担になる場合は、次の活動の写真を指してもらうだけでも構いません。
一方で、予定が分かれば必ず動けるわけではありません。
次の活動が難しすぎる、長すぎる、失敗する不安がある、刺激がつらい。そのような場合は、予定表を繰り返し見せるだけでなく、次の活動の量や難しさ、場所、始め方を見直す必要があります。
予定表を見せても動けない姿は、支援の失敗と決める材料ではなく、「次の活動にも見直す点がありそうだ」と気づく材料になります。
3.終わり方を決め、区切りを一緒につくる
特に小さい子どもには、活動ごとの「終わり方」がある程度決まっていると、気持ちを次へ向けやすいことがありました。
- 最後の一回を大人と一緒に行う
- 作品を写真に撮ってから片づける
- 最後の一つを箱に入れたら終わりにする
- 動画が終わったら、端末を決めた場所へ置く
- 「おしまい」の歌や合図を毎回使う
終わり方が繰り返されると、「この流れで終わる」という見通しを持ちやすくなります。ただし、決まった手順ができなければ終われない状態にならないよう、慣れてきたら少しずつ形を変えても終えられるかを見ていきます。
私は、子どもに「キリの良いところまでやって、次に行こう」と伝えることもよくありました。
この言葉で、大人が待ってくれていると感じ、「それなら、ここまでやって終わろう」と気持ちを向けやすくなる子どもも多かったように思います。
ただし、「キリの良いところ」を無期限の延長にはしません。
「あと一回」
「この一個をつけたら」
「このページまで」
と、子どもと大人が確かめられる終点を決め、その終点では一緒に終えます。目的は予定をなくすことではなく、突然切られたと感じにくい終わり方をつくることです。
4.気持ちを受け止めながら、終わりも伝える
切り替えを促すとき、「切り替えるのは大変だよね」という大人側のスタンスも大切だと感じています。
この捉え方があると、言葉の選び方や声の調子、待つ時間、努力を認めるタイミングが変わります。
「もっと遊びたかったね」
「途中だったから、終わりにくかったね」
「楽しかったね。あと一回で終わって、次は予定表を見よう」
気持ちを受け止めることは、希望をすべて通すことでも、ルールをなくすことでもありません。
気持ちは否定せず、終わりと次の流れは分かりやすく伝える。



気持ちを受け止めると、「まだ遊んでいい」と受け取られませんか?



受け止めるのは気持ちです。予定まで曖昧にする必要はありません。「もっと遊びたかったね。あと1回で終わろう」のように、共感と終点をセットで伝えます。
共感だけで終わりを曖昧にせず、指示だけで気持ちを置き去りにもしない。その両方を大切にします。
また、すぐ移動する必要がある場面もあります。危険があるときは安全を優先し、集団の予定によって待てないときは、まず必要な移動を支えます。その後、落ち着いてから「もっとやりたかったね」と受け止め、次回はどのタイミングで何を予告するかを見直します。
5.次の活動への最初の一歩を、一緒に行う
予告や予定表を使っても動き出せないときは、最初からすべてを一人で求めすぎていないかを考えます。
私の実践では、次のような関わりが役立つことがありました。
- 最後の一回を大人と一緒に行う
- 片づけの一部だけを任せ、残りは一緒に行う
- 次の場所まで一緒に歩く
- 次の活動の最初だけ一緒に始める
- 「自分で箱に入れる」「一緒に入れる」など、移り方の選択肢を示す
選択肢を出す場合は、「次へ行くか、行かないか」を選ばせるのではなく、必要な切り替えをどのように行うかを選べる形にします。
大人と一緒なら移れることも、立派な一歩です。支援を受けながら経験を重ね、できる部分が増えてきたら、様子を見ながら少しずつ手助けを減らしていきます。
次の活動を始めるための「最初の一歩」については、目的を理解すれば動けるのか――「やる気は、やった後から育つことがある」という支援の視点でも詳しく考えています。
予告や予定表を使っても難しいときに、見直したいこと
うまくいかないときに、同じ言葉を強く繰り返しても、子どもが動きやすくなるとは限りません。
そんなときは、次の点を見直します。
- 予告は、その子に理解できる内容と方法だったか
- 予告した後、終わりまでの過程を一緒にたどったか
- 終点が途中で変わったり、曖昧になったりしていないか
- 次にすることを見える形で示したか
- 次の活動が難しすぎたり、長すぎたりしていないか
- 疲れ、空腹、周囲の刺激の多さはなかったか
- 最初の一歩を一人で求めすぎていなかったか
- 大人の言葉や関わりが増えすぎていなかったか
タイマー、予定表、選択肢は、どれも支援の候補です。しかし、どの子にも、どの場面にも同じように合う方法ではありません。
方法が合わなかったときは、「この子はやはり切り替えが苦手だ」と結論づけるのではなく、どこで止まっていたかをもう一度見ます。
記録するときは、「切り替えられなかった」とまとめず、声をかけた時刻、本人の言葉、示した予告、実際に移るまでの様子、次の活動への参加を分けて残します。観察した事実と見立ての分け方は、発達支援の記録で「事実」と「解釈」を分ける方法も参考にしてください。
明日から試すなら、一つの切り替え場面に絞る
すべての切り替えを一度に変える必要はありません。
まずは、自由遊びから片づけ、好きな活動から課題、場所の移動、動画やゲームの終了など、繰り返し難しくなる一つの場面を選びます。
- 今の活動を、どこで終えるか決める
- その子に伝わる方法で、終わりを予告する
- 「あと2回」「次が最後」など、終わりまでの過程を一緒にたどる
- 予定表や写真で、終わった後の流れを示す
- 「もっとやりたい」という気持ちを受け止める
- 最後の一回、片づけの一部、次の活動の最初などを一緒に行う
- 移れたかだけでなく、次の活動へ注意や行動を向け始められたかを見る
- 合わなければ、予告だけでなく次の活動の負担や環境も見直す
一度で正解を当てる必要はありません。一つ変えて、その後の子どもの様子を見ながら調整します。
まとめ|切り替えは、気持ちが次へ向かう過程
「切り替えが苦手」という言葉は、子どもの姿を簡潔に表してくれます。しかし、そこで考えることを終えると、支援は変わりません。
すぐに大人の指示に従えたことだけが、成功ではありません。
「もっとやりたい」と伝えられたこと。終わりと次の予定を確かめられたこと。大人と一緒に移れたこと。次の活動の最初の一歩に参加できたこと。
それらも、切り替えに向かう大切な姿です。
目指したいのは、子どもの体を大人の予定に合わせて移動させることだけではなく、本人の気持ちが少しずつ次へ向き、必要な支援を受けながら次の活動へ入っていけることです。
そのために、
- 終わりを分かる形で予告する
- 終わった後まで見せる
- 区切りのある終わり方をつくる
- 気持ちを受け止めながら境界を伝える
- 最初の一歩を一緒に行う
という視点から、明日の支援を考えてみてください。
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参考にした資料
- 文部科学省(2018)「特別支援学校教育要領・学習指導要領解説 自立活動編(幼稚部・小学部・中学部)」
自閉症のある幼児児童生徒への指導例として、特定の行動を無理にやめさせるのではなく、時間帯や回数を決め、予定表で見通しを持ちながら、本人が納得して次の活動へ移れるよう段階的に支援する考え方が示されています。 - こども家庭庁(2024)「障害児支援におけるこどもの意思の尊重・最善の利益の優先考慮の手引き」
言葉だけでなく、表情、身振り、行動等も含めてこどもの意思を丁寧に捉えることや、発達や障害の特性に応じて予定の見通しを分かりやすく伝えることが示されています。 - Brewer, A. T. et al.(2014)“Advance Notice for Transition-Related Problem Behavior: Practice Guidelines”
事前予告は、見通しのなさが切り替えを難しくしている場合には役立つ可能性がある一方、好きな活動を終えることや次の活動の負担そのものが大きい場合には、予告だけでは十分でない可能性を整理しています。 - Waters, M. B., Lerman, D. C., & Hovanetz, A. N.(2009)“Separate and Combined Effects of Visual Schedules and Extinction Plus Differential Reinforcement on Problem Behavior Occasioned by Transitions”
自閉症児2名を対象とした小規模な研究では、好みの活動から好みでない活動への移行時に、視覚的予定表だけでは問題行動が減らなかったと報告されています。予定表を万能視せず、次の活動の負担や行動の背景も見る必要性を考える資料として参照しました。
※公的資料の一部は自閉症や障害のある子どもを主な対象としており、研究も少人数の事例を含みます。本文の実践例は、ゆうた先生が支援現場で経験した場面を一般化して記載したものです。予告、予定表、タイマー等の方法は効果を保証するものではなく、年齢、発達、本人の意思、健康状態、活動内容、環境に応じて調整する必要があります。






