「もう終わりだよ」
「次に行くよ」
「早くして」
そう伝えているのに、なかなか遊びを終えられない。
好きな活動から次の活動へ移れない。
帰る時間になっても、その場から動けない。
支援や教育の現場では、こうした「切り替えの難しさ」に出会うことがあります。
何度伝えても動かないと、「分かっているのにやらないのかな」
「わがままなのかな」
「もっと強く伝えた方がいいのかな」と考えたくなることもあると思います。
でも、切り替えが難しい子を見ていると、それだけでは説明できないことがたくさんあります。
ゆうた先生切り替えられないという行動だけを見るのではなく、「この子にとって、今何が難しいんだろう?」と考えることが、支援のスタートになると思っています。
切り替えが難しくなりやすいのは、どんなとき?
私が現場で比較的よく見るのは、好きな活動から、あまりやりたくない活動へ移る場面です。
遊びを終えて次の活動へ向かうときや、帰る時間になったときにも、切り替えに時間がかかる子がいます。
一方で、同じ子でも、いつでも同じように切り替えが難しいとは限りません。
例えば動画やゲームも、家庭ではなかなか終えられなくても、園や学校の決まった流れの中では比較的スムーズに終えられることがあります。
つまり、「この子は切り替えができない子」と考えるよりも、「どんな場面では難しくて、どんな条件なら切り替えやすいのか」を見る方が、その子を理解しやすくなると思います。
「次が分からない」だけが理由ではない
切り替え支援というと、「次の予定を見せる」
「見通しを持たせる」という支援がよく使われます。
もちろん、それが有効な子もたくさんいます。
ただ、次に何をするか分かっていても、切り替えられない子もいます。
その場合、私は、「次の活動」ではなく、「今の活動を終えること」そのものに難しさがあるのではないかと考えることがあります。
今やっていることが楽しくて、単純に終わりたくないこともあります。
それとは別に、一度始めたことを途中で区切ること自体が難しい子もいるように感じています。
大人と子どもで「終わり」の大きさが違うのかもしれない
例えば、絵本を読んでいるとします。
大人であれば、「このページまで読んだら一度終わろう」
「あと3行だから、ここで区切ろう」ということが比較的自然にできます。
そして、次に本を開いたときには、「前はここまで読んだから、続きをここから読もう」と再開できます。
でも、切り替えが難しい子の中には、そうした細かな区切りを作りにくい子もいるのではないか、と私は考えることがあります。
本人にとっての「終わり」が、「このページまで」ではなく、「この本を全部読み終えるまで」になっている。
制作活動なら、「ここまで作ったら終わり」ではなく、「作品が全部完成するまで」が一つのまとまりになっている。
そう考えると、大人からは、「もう終われるでしょう」と思える場面でも、本人にとっては、「まだ途中」なのかもしれません。
これはすべての子に当てはまる話ではありませんし、あくまで一つの見立てです。
ただ、「終わりたくない」と「どう区切ればいいのか分からない」を同じものとして扱わないことは大切だと思っています。
「後で続きができる」と分かることも大切
もう一つ考えたいのが、「今やめても、あとで続きをできる」という見通しです。
「次は給食だよ」
「次は片付けだよ」と、次の予定は分かっていても、今やっている遊びや活動について、「ここで終えても、あとでここから再開できる」という見通しを持ちにくいこともあるのかもしれません。
そういうときには、例えば本なら、しおりを挟む。
制作物なら、続きができる状態で残しておく。
「ここまでやった」ということが分かる形にしておく。
こうした支援も考えられます。
疲れているときは「切り替え」だけを見ない
切り替えの難しさを考えるときには、本人のその日の状態も見ます。
特に小さい子どもでは、疲労が溜まってくると、切り替えだけでなく、活動を続けること自体が難しくなることがあります。
私がまず見るのは表情です。
その子の表情に余裕があるか。
いつもと比べて、少し余裕がなくなっていないか。
表情に出にくい子であれば、声の出し方や身体の動きも見ます。
例えば、普段より声が大きくなってくる。
動きがだんだん激しくなる。
身体の動きを自分で調整しにくくなっているように見える。
そうした「普段との違い」が重なってきたときには、「少し疲れてきているのかな」
「今は負荷が高くなっているのかな」と考えます。
もちろん、「声が大きい=疲れている」
「動きが激しい=疲労」と決めつけるわけではありません。
大切なのは、その子の普段の姿との比較です。
子どもに求めることも、その瞬間に合わせて変える
本人に余裕がないと感じたときには、刺激を減らしたり、課題の負荷を下げたりします。
そして、支援者側が設定していた目標も、一度調整することがあります。
例えば、「ここまで全部やってから移動する」という目標だったとしても、今の本人には負荷が高いのであれば、「まずは次の場所へ移動する」ところまで目標を下げる。
一度切り替えられて、その後に本人の余裕が戻ってきたら、また元の目標へ戻していく。
私は、目標を固定するのではなく、子どものその瞬間の状態に合わせて動かしていくことも大切だと思っています。
声かけも同じです。
「行こう」
「早くして」と同じ言葉を繰り返すのではなく、「どうしたら行けそうかな」
「ここまでならできそう?」というように、少し本人に寄り添う形へ戻すことがあります。
もともとは「活動を終える難しさ」だったものが、何度も同じ指示を受けるうちに、子どもの苛立ちや大人への反発へ変わっていくこともあるからです。
まずは事前に伝える
切り替えが難しい子に対して、まず大切にしたいのは、事前に伝えることです。
突然、「はい、終わり」と言われるより、「あと少しで終わりだよ」
「あと1回やったら終わりにしよう」と、終わりを事前に知らせる。
必要に応じて、タイマーを使うこともあります。
ただし、タイマーは万能ではありません。
タイマーが鳴ったからといって、本人の中で活動の区切りがつくとは限らないからです。
「あと何分」より「このページまで」の方が分かりやすい子もいる
「あと5分」
「あと2回」と伝えても、なかなか終われない子もいます。
そういうときには、「今読んでいるこのページまで」
「この1ページをめくったら終わり」など、活動そのものの中に具体的な区切りを作ります。
本人と一緒に、「どこまでやったら終われそう?」と考えることもあります。
大人の決めた時間だけで終わらせるのではなく、本人にとって「終わった」と感じやすい場所を探していくイメージです。
予告や予定表など、切り替え支援の全体像は、「切り替えが苦手」で終わらせない|子どもの気持ちが次へ向かう5つの支援でも紹介しています。
「終わり」だけではなく「次」を見せる
もう一つ大切にしているのが、次に何をするのかを具体的に見せることです。終わりを知らせる支援と、次へ気持ちを向ける支援は、分けて考えています。
「もう終わり」とだけ伝えると、本人にとっては、今やっている楽しいものを失うだけになってしまうことがあります。
一方で、「次はこれをするよ」と見せると、新しい選択肢が出てきます。
次の活動で使うものがあるなら、それを実際に本人のところへ持っていって、「次はこれをやるよ」と見せることもあります。
次の活動への期待が生まれることで、気持ちを向けやすくなる子もいます。
それでも終われないときは、もう一度「今」を見る
事前に伝えても、具体的な区切りを決めても、まだ終われないことはあります。
そういうときには、同じ指示を繰り返す前に、一度その子が今何をしているのかを一緒に見ます。
「今これを作っているんだね」
「ここを読んでいるんだね」と、今の活動を把握した上で、「じゃあ、ここまでならできそう?」と改めて区切りを考えます。
その上で次の活動を見せ、少しずつ気持ちを次へ向けていきます。
最後の片付けを本人にやってもらうことが、いつも正解ではない
次へ気持ちが向いたあとに、「では、元のおもちゃを自分で全部片付けてから行こう」とする場合もあります。
一方で、その子の状態によっては、大人がそっと片付け、本人には次の活動へ向かってもらうこともあります。
ここは一律ではありません。
私は、本人の表情に余裕があるか。反応が強くなっていないか。こちらの言葉を聞ける状態か。何を求められているのか理解できていそうか、といったことを見ます。
今回は「自分で終えること」を練習する場面なのか。さらに要求を増やすことで、かえって大きく崩れそうではないか。そうしたことも合わせて判断します。
「最後まで自分で片付けること」が支援の目的になってしまうと、せっかく次へ向いた気持ちを、もう一度元の活動へ戻してしまうこともあります。
何を優先するかは、その子の状態によって変わります。
切り替えられない行動だけで、その子を判断しない
切り替えが難しい子には、その子なりの難しさがあります。
今の活動を終わりたくないのかもしれません。
区切りを作ることが難しいのかもしれません。
続きを後で再開する見通しが持ちにくいのかもしれません。
疲れて余裕が少なくなっているのかもしれません。
次の活動に気持ちが向いていないのかもしれません。
一つの理由だけで説明できないことも多いと思います。
子どもたちは、まだ発達の途中にいます。
切り替えに必要な力も、さまざまな経験の中で育っていくものです。
だからこそ、「どうしてできないの?」と子どもだけに答えを求めるのではなく、「この子にとって、今どこが難しいんだろう?」と、大人側が理解しようとすることが大切だと思っています。
子どもの行動には、必ず理由があります。
まずは、その背景を見るところからスタートしてみてください。

