基本を知り、目の前の子への支援につなげる
「発達障害という言葉は聞いたことがあるけれど、実際にはどういうものなの?」
保護者の方や、初めて発達支援・特別支援教育に関わる方から、このような質問を受けることがあります。
発達障害について学ぶとき、ASDやADHDなどの特徴を知ることはもちろん大切です。
ただ、私がそれ以上に大切だと思っているのは、
診断名だけで、その子を見ないことです。
この記事では、発達障害の基本的な意味と、実際に子どもと関わるときに大切にしたい考え方を整理します。
発達障害とは?
日本の発達障害者支援法では、発達障害について、自閉症やアスペルガー症候群などの広汎性発達障害、学習障害、注意欠陥多動性障害などの「脳機能の障害」で、その症状が通常低年齢に現れるものとして政令で定めるものを指します。これは第2条の定義の要約です。 [1]
現在よく使われる診断名では、例えば、
- 自閉スペクトラム症(ASD):人とのやりとりやコミュニケーションの難しさ、興味や行動の偏りなどがみられます。
- 注意欠如・多動症(ADHD):年齢や発達段階に比べて不注意や多動性・衝動性の一方、または両方が強く、複数の場面で生活に支障が生じます。
- 限局性学習症(SLD):読む、書く、計算するなど、特定の学習技能の習得や使用に持続的な難しさがあります。
- 発達性協調運動症(DCD):身体の動きを協調させる技能の習得や実行が難しく、日常生活や学習などに支障が生じます。
などがあります。ここでは特徴を短く整理しています。苦手さが一つあるだけで診断が決まるわけではありません。 [3]
SLDは学習障害と呼ばれることもありますが、教育分野の「学習障害(LD)」と医学的なSLDでは、定義や対象とする範囲に違いがあります。 [8] [9]
発達性協調運動症(発達性協調運動障害)についても、発達障害者支援法に基づく発達障害の定義に含まれることが、国立障害者リハビリテーションセンターから示されています。 [2]
法律上の「発達障害」と医学上の「神経発達症」
ここで少し注意したいのが、「発達障害」という言葉です。
日本の法律で使われる「発達障害」と、医学で使われる「神経発達症」という分類は、完全に同じ範囲を指しているわけではありません。
医学的な「神経発達症」という大きな分類では、ASD、ADHD、限局性学習症、運動症に加えて、知的能力障害(知的障害)なども含めて整理されます。 [3] [7]
そのため、
「発達障害と知的障害は完全に別物」
と単純に考えるのも正確ではありません。
例えば、ASDと知的障害が併存することもあります。 [3]
これは、知的障害とASDが同じ診断という意味でも、知的障害のある人すべてが法律上の「発達障害」に該当するという意味でもありません。分類の範囲と、複数の障害が併存することは、分けて考えます。
大切なのは、診断名の分類を覚えることだけではなく、目の前の人にどのような特徴や困難さがあるのかを見ることです。
同じ診断名でも、一人ひとり全く違う
私は、発達障害について説明するときに、
「一人ひとり実態は違います」
ということを大切にしています。
例えば、同じASDという診断名がついていても、実際の子どもの姿は全く同じではありません。
なぜなら、その子は障害特性だけでできているわけではないからです。
その子の性格。
これまで経験してきたこと。
そこから培ってきた考え方。
家庭環境や家族構成。
園や学校など、これまで過ごしてきた環境。
そして、これまで関わってきた人との関係。
いろいろなものが重なって、今、目の前にいるその子がいます。
障害は、その子を構成する一部にすぎません。
また、障害特性だけを見ても、その程度や現れ方、認知の特徴などは一人ひとり違います。
国立障害者リハビリテーションセンターも、発達障害は特徴が重なり合うことがあり、年齢や環境によって目立つ症状が異なることを説明しています。 [4]
だから、
「ASDだから、この支援」
「ADHDだから、この対応」
と診断名だけで支援方法を決めることはできません。
診断名は、その子を理解するための大切な情報の一つです。
でも、診断名がその子そのものではないということです。
「甘えている」「大人をなめている」で終わらせない
現場で子どもの行動について話を聞いていると、
「甘えているんじゃないですか」
「大人をなめているのでは?」
といった言葉を耳にすることがあります。
もちろん、すべての行動を発達障害だけで説明することも違います。
一方で、行動だけを見て、
「態度の問題」
「本人のやる気の問題」
と判断してしまうと、本当の難しさが見えなくなってしまうことがあります。
例えば、何か行動が起きたとき、私はその行動だけを見るのではなく、
その前に、どんな状況があったのか。
本人はその状況をどう理解していたのか。
そのとき、どんな気持ちだったのか。
指示は本人に伝わっていたのか。
集中はどのくらい続いていたのか。
といったところを見ます。
国立障害者リハビリテーションセンターでも、気になる行動の背景に理由がある可能性に目を向け、子どもを取り巻く環境を観察し、対応や環境を工夫することが示されています。 [5]
行動の前後や伝え方を具体的に見直す視点は、注意しても同じ行動を繰り返す子に、注意を増やす前に確認したい5つのことでも紹介しています。
「できない」ではなく、どこから難しくなるのかを見る
もう一つ大切にしていることがあります。
それは、
できていないところだけを見ないことです。
例えば、
「この子は授業に集中できません」
だけではなく、
「最初の10分は参加できています。でも、そのあたりから難しくなっています」
と見る。
「切り替えができません」
だけではなく、
「次の予定は理解できています。でも、今やっている活動を終えるところが難しいです」
と見る。
私は周囲の先生方にも、
「ここまではできています。でも、ここからが難しいんですよね」
という形で伝えることがあります。
すると、
「言うことを聞かない子」
という大きなくくりだったものが、
「見通しを持つところが難しいのかもしれない」
「切り替えるところが難しい」
「長時間集中を続けることが難しい」
と、もう少し細かく見られるようになります。
原因を決めつけるのではなく、
どこまではできていて、どこから難しくなっているのか
を見る。
ここが、支援を考える上でとても大切だと思っています。
活動を終えるところの難しさについては、切り替えが苦手な子に「早くして」を繰り返す前にで、本人にとっての区切りや再開の見通しから考えています。
発達障害のある子への支援で大切にしたい4つのこと
子どもの難しさが少し見えてきたら、私は本人にだけ変化を求めるのではなく、周囲側も変えられないかを考えます。
大きく分けると、次の4つです。
環境を変える
刺激が多すぎないか。
課題が難しすぎないか。
活動の流れが本人に分かりにくくなっていないか。
まず、本人が過ごしている環境を見直します。
伝え方を変える
同じことを何度も言う前に、
言葉を短くした方がいいのか。
実物を見せた方がいいのか。
絵や写真を使った方が分かりやすいのか。
本人に伝わる方法を考えます。
本人のできる方法を探す
大人が考える「正しいやり方」に合わせてもらうことだけが支援ではありません。
本人が今持っている力を使って、どうしたらできるかを一緒に探します。
周囲が理解する
これはとても重要です。
子どもだけが頑張っても、周囲がずっと、
「甘えている」
「やればできる」
「もっと頑張ればいい」
と考えていたら、本人の困難さはなかなか軽くなりません。
本人の特徴や難しさを周囲が理解すること自体も、大切な支援の一つだと思います。
「努力すれば治る」「育て方が原因」ではない
発達障害について、
「育て方が原因なのでは?」
「本人が努力すれば治るのでは?」
と考えられることがあります。
しかし、発達障害は、発達期からみられる脳機能に関係する障害として定義されています。保護者の育て方や本人の努力不足が原因で起こるものではありません。 [6]
本人の努力だけで「治す」ことを求めるのではなく、その人に合った支援や環境調整を考えます。適切な支援や、必要に応じた医療によって、生活上の困難が軽くなることがあります。 [3]
もちろん、育ってきた環境や経験、人間関係が、その人の現在の行動や考え方に影響することはあります。
だからこそ、
「全部障害のせい」
でも、
「全部育て方のせい」
でもありません。
本人の特性と、その人がこれまで生きてきた環境や経験の両方を見る必要があります。
発達障害を知ったあとこそ、目の前の子を見る
発達障害について学ぶことは、とても大切です。
ASDとは何か。
ADHDとは何か。
SLDとは何か。
それぞれの特徴や支援方法を知ることで、これまで見えていなかった子どもの難しさに気づくことがあります。
ただ、知識を得たあとに、
「この子はASDだからこうだ」
と診断名に子どもを当てはめてしまったら、本末転倒です。
この記事を通して、特に覚えておいてほしいことは3つです。
診断名ではなく、目の前の子を見ること。
本人だけに努力を求めないこと。
困った行動にも理由があること。
発達障害という言葉は、その子を理解するための一つの入口です。
そこから、
「この子は何が得意なんだろう」
「どこから難しくなるんだろう」
「環境や伝え方を変えたらどうなるだろう」
と考えていく。
それが、実際の支援につながっていくのだと思います。
私が「子どもの行動には、必ず理由がある」と伝えるのは、行動だけで責めず、その背景を理解しようとする支援上の姿勢です。原因を必ず一つに特定できる、という意味ではありません。
子どもの行動には、必ず理由があります。
まずは、その背景を見るところからスタートしてみてください。
基礎から、実際の支援へ
「基礎知識辞典」では、発達・障害・支援の基本を一つずつ整理していきます。今回は第1回「発達障害とは?」です。ASDについては、第2回「自閉スペクトラム症(ASD)とは?」で、特徴・診断・支援の基本を詳しく紹介しています。ADHD・SLDなどの用語も、今後それぞれの記事で扱っていきます。
具体的な子どもの姿から支援を考えたい方は、次の実践記事もご覧ください。
- 発達障害・ASDの子どもの興味の偏り|関わりを広げる3つの支援
- 文字を書くのが苦手な子、何につまずいている?|「書けない」を支援につなげる5つの見方
- 子どもが「困った」と言えないときに|助けを求められる関係を育てる4ステップ
参考にした公的情報
法律・医学的な説明は以下の公的資料を参照しました。「私は」と記した見方や支援の具体例は、ゆうた先生自身の現場経験・支援観です。
確認日:2026年9月13日

