特徴を知り、目の前の子への支援につなげる
「ASDの子は、人に興味がないんですよね」
「こだわりがあるなら、全部受け入れた方がいいのでしょうか」
「予定変更が苦手なら、慣れるためにどんどん予定を変えた方がいいですか?」
自閉スペクトラム症(ASD)について学んでいくと、こうした疑問が出てくることがあります。
でも、実際に子どもたちと関わっていると、私はそんなに単純ではないと感じます。
同じASDという診断名があっても、見え方も、感じ方も、得意なことも、困ることも、一人ひとり違います。
だからこそ、ASDの特徴を知ることは大切ですが、「ASDだから、この子もこうだ」と決めつけないことも同じくらい大切です。
自閉スペクトラム症(ASD)とは?
自閉スペクトラム症(Autism Spectrum Disorder:ASD)は、発達障害・神経発達症の一つです。 [2]
診断では、大きく、
- 社会的コミュニケーションや対人的な相互作用の難しさ
- 限定された興味や、反復的な行動・活動など
が重要な特徴として位置づけられています。 [1]
また、音・光・味・触覚などを強く感じたり、反対に感じにくかったりするなど、感覚の違いがみられることもあります。 [1]
ASDの診断では、発達の経過と生活への影響も見る
診断では、こうした特徴だけを一つ見て判断するのではなく、発達早期からの様子や、日常生活への影響なども含めて、医師が総合的に判断します。 [1]
ただし、ここで挙げる特徴が、ASDのあるすべての人に同じように現れるわけではありません。
発達障害全体の位置づけや、法律上の「発達障害」と医学上の「神経発達症」の違いは、第1回「発達障害とは?」で整理しています。
「見通しが持ちにくい」ことが、不安につながることがある
私が子どもたちと関わる中でよく考えるのが、見通しの持ちにくさです。
次に何が起こるのか、自分がどこまでやればよいのか、いつ終わるのか。
そうしたことが分かりにくいと、不安になったり、行動の切り替えが難しくなったりすることがあります。
私が関わってきた子どもの、朝の支度を例に挙げます。
いつもと違う順番で進むと気持ちが不安定になる一方で、いつもと同じ流れで進めると、その後の活動へ向かいやすくなり、一日を比較的穏やかに過ごせる子もいます。
厚生労働省の資料でも、ASDでは見通しの立たない状況で不安が強くなる場合があることが示されています。 [3]
活動を終えるところや再開の見通しについては、切り替えが苦手な子に「早くして」を繰り返す前にでも具体的に紹介しています。
繰り返す行動には、その子なりの意味があるかもしれない
私が現場で見てきた姿には、次のようなものがあります。
自由遊びで同じ遊びを何度も繰り返す。
同じ場所を行って帰って、また行って帰ってと歩く。
くるくると回る。
こうした行動を見たとき、私は「やめさせなければ」と考える前に、
この行動は、この子にとってどんな意味があるのだろう
と考えるようにしています。
同じ流れや同じ刺激を繰り返すことで、安心しているのかもしれません。
感覚を整えているのかもしれません。
もちろん、繰り返す行動がすべて「安心するため」とは限りません。
大切なのは、行動の形だけを見て判断するのではなく、その行動が本人にとってどのような役割を持っているのかを考えることだと思います。
行動が起きる前後の状況を整理する視点は、注意しても同じ行動を繰り返す子に、注意を増やす前に確認したい5つのことでも扱っています。
「人との関わりが苦手」=「人と関わりたくない」ではない
ASDの特徴として、対人関係やコミュニケーションの難しさが挙げられます。
たとえば、
- 相手の意図をくみ取りにくい
- 表情から気持ちを読み取りにくい
- その場の雰囲気から、何を求められているのか理解しにくい
といった姿がみられることがあります。 [5]
そこから、対人距離の取り方が難しくなったり、自分の好きな話題を長く続けたりする姿につながる場合もあるのではないか、と私は考えています。
ただし、ここで特に大切にしたいのが、
「苦手なこと」と「やりたいかどうか」は別
ということです。
人と関わることが得意ではないからといって、人と関わりたくないとは限りません。
一人でいることが多いからといって、
「この子は一人が好きなんだ」
「そっとしておいた方がいい」
と決めてしまうのも違うと思います。
人と関わりたい気持ちはあっても、どう入ればよいのか分からない。
相手にどう伝えればよいのか分からない。
人とのやり取りに、他の人よりたくさんのエネルギーを使っている。
そうした可能性も考えておきたいと思っています。
対人関係では「その場面」を具体的に伝える
子ども同士のやり取りがうまくかみ合わなかったとき、私は、
「あなたは人の気持ちが分かりにくいんだよ」
と伝えることは、基本的にはしません。
まず本人の思いや意図を考え、
「こういうことを伝えたかったのかな」
と確認しながら、必要であれば相手に伝えます。
逆に、
「今こういう言葉を言ったよね。その言葉を聞いて、相手はこういう気持ちになったみたいだよ」
というように、実際に起きた場面と言葉・行動をつなげて具体的に伝えます。
本人の思いを相手に翻訳する。
相手の思いを本人に翻訳する。
そんな橋渡しをするイメージです。
そのときも、本人や相手の気持ちを、支援者の推測だけで決めつけないようにします。
「もっと相手の気持ちを考えて」と抽象的に求めるより、そのとき何が起きていたのかを具体的に整理していく方が、次の経験につながりやすいと感じています。
自分の困りごとを伝えるための関係づくりは、子どもが「困った」と言えないときにで紹介しています。
感覚の違いは、一人ひとり違う
ASDでは、感覚過敏だけでなく、感覚を感じにくい「感覚鈍麻」などもみられることがあります。国立障害者リハビリテーションセンターでも、ASDではさまざまな感覚の問題が生じることがあるとされています。 [4]
私自身の現場での経験を整理すると、次のようになります。
- 食感へのこだわり:ある程度見かけます。
- 強い刺激を求める姿:ある程度見かけます。
- 痛みに気づきにくいように見える姿:かなりよく見かけます。
一方で、大きな音を強く嫌がったり、服の素材を強く嫌がったりする姿は、私がこれまで関わってきた子どもたちではそれほど多くありませんでした。
これはあくまで私自身の経験であり、「ASDではこの感覚が多い・少ない」という意味ではありません。
また、「痛そうに見えない」からといって、本人が痛みを感じていないとは限りません。
外から見える反応だけではなく、その子がどのように感じ、どのように表出しているのかを考える必要があります。
「できない」の前に、環境を見る
もう一つ、私がよく見るのが、周囲の視覚的な情報に注意が向きやすい子です。
周りにたくさんの子どもがいて、目の前で人が何人も動いている。
そのような環境では、目の前の課題ではなく、人の動きに注意が向き、自分がやるべきことに集中しにくくなる場合があります。
そんなときは、
- 座る向きを変える
- 視界に入る情報量を減らす
- 机の上など、目の前の情報を整理する
- 必要に応じて大人の声を小さくする
といった調整をします。
すると、自分が取り組むことに注意を向けやすくなり、集中して考えられるようになる子がいます。
ここで大切なのは、
「問題ができない=問題の内容が分からない」とは限らない
ということです。
本当は考える力があっても、周囲の情報に注意を取られ、考えることに十分な力を使えない。
その結果、「分からない」「できない」という姿になっていることもあります。
もちろん、実際に問題の理解そのものに難しさがある場合もあります。
だからこそ、
「この問題は分からないんだ」
と判断する前に、
この子が考えることに集中できる環境になっているか
も一度確認したいと思っています。
視覚支援は「ASDだから使う」のではない
ASDの支援では、予定表や写真、イラストなどの視覚支援が紹介されることが多くあります。
視覚的に情報を示すことで、理解しやすくなる人がいることは、公的な支援資料でも示されています。 [1] [5]
ただし、
「ASDなら視覚支援を使えばよい」
というわけではありません。
視覚的な情報が多いことで、かえって注意がそれる子もいます。
大切なのは支援方法の名前ではなく、
その方法を使ったとき、目の前の子が本当に分かりやすくなっているか
を見ることです。
こだわりは、全部なくす必要も、全部認める必要もない
こだわりについても、二択では考えません。
「こだわりは全部やめさせなければいけない」
でも、
「本人が安心するなら全部そのままでよい」
でもないと思っています。
予定変更についても同じです。
「苦手だから絶対に予定を変えない」のでも、「慣れさせるために突然大きく予定を変える」のでもありません。
私が考える順番は、まず、
① 今後、その子にどんな力が必要になるか
です。
本人の生活や参加、安全、将来の選択肢を広げるために、少しずつ変化を受け入れる経験が必要なのかを考えます。予定変更に慣れさせること自体を目的にはしません。
その次に、
② 今の本人がどのくらいなら受け入れられるのか
を見ます。
その日の余裕、不安そうな表情、疲れ、これまでの経験なども含めます。
そして、
③ どの場面で、どの程度の小さな変更から経験するか
を考えます。
④ 実施中も、本人の表情・不安・余裕を見て調整する
始めた後も、最初に決めた計画をそのまま押し通すわけではありません。
本人の表情や余裕を見ながら、その瞬間ごとに調整していきます。
支援は、本人に我慢をさせることではなく、本人が経験できる範囲を見極めながら、少しずつ選択肢を広げていくことだと考えています。
好きなことを入口に人や活動との関わりを広げる方法は、ASDの子どもの興味の偏り|関わりを広げる3つの支援も参考にしてください。
参考にした公的情報
医学・診断に関する説明は、以下の公的資料を確認しています。「私は」と記した見方や具体例は、ゆうた先生自身の現場経験・支援観です。
確認日:2026年9月13日
- [1]厚生労働省「自閉スペクトラム症に関する資料」(診断・支援の概要)
- [2]発達障害ナビポータル「自閉スペクトラム症」
- [3]厚生労働省「障害を理由とする差別の解消の推進に関する対応要領」(発達障害の特性・対応)
- [4]国立障害者リハビリテーションセンター 発達障害研究室(感覚過敏・鈍麻)
- [5]国立精神・神経医療研究センター「発達障害(神経発達症)」(ASDの特徴・支援)
ASDの子どもと関わるときに大切にしたいこと
最後に、私が大切にしたいことを三つ挙げます。
一つ目は、「苦手なこと」と「やりたいかどうか」は別だということ。
二つ目は、行動だけを見るのではなく、その行動が本人にとってどんな意味を持っているのかを考えること。
三つ目は、本人だけを変えようとせず、環境も調整すること。
ASDのある子どもが、実際に世界をどのように見て、感じているのか。
それを、私たちが完全に理解することは難しいと思います。
だからこそ、
「この子には今、どう見えているんだろう」
「どんなふうに感じているんだろう」
「この行動には、どんな意味があるんだろう」
と、思いをはせることが大切なのだと思います。
分かったつもりになるのではなく、分からないからこそ、考え続ける。
その姿勢が、目の前の子どもに合った支援を考える第一歩になるのではないでしょうか。
子どもの行動には、必ず理由があります。まずは、その背景を見るところからスタートしてみてください。

