「この子は、まだこれができません」
「何度練習しても、なかなかできるようになりません」
子どもの支援について話していると、このような言葉を聞くことがあります。
もちろん、今できることと難しいことを把握するのは大切です。
しかし、私は「できない」という結果だけで子どもの力を判断することには限界があると考えています。
例えば、はさみを使うことが難しい子どもがいたとします。
その子は、はさみの使い方が分からないのでしょうか。
それとも、手や指を動かすことが難しいのでしょうか。
線を見ながら切ることが難しいのかもしれません。
あるいは、何を作る活動なのか分からず、取り組み始められないのかもしれません。
同じ「はさみが使えない」という姿でも、難しさの背景は一人ひとり違います。
だからこそ私は、子どもが何かをできないとき、最初に「何がブロックになっているのか」を考えるようにしています。
今回は、子どものつまずきを具体的に理解し、支援につなげるための5つの視点を紹介します。
1.「できない」の中身を小さく分けてみる
活動に取り組めない子どもを見たとき、まず考えたいのは、その活動がどのような力で成り立っているかということです。
例えば、先生の説明を聞いて制作活動に取り組む場面。
一見すると、一つの活動のように見えます。
しかし、実際にはいくつもの過程があります。
- 説明に注意を向ける
- 何を作るのか理解する
- 必要な道具を確認する
- 作業の順番を理解する
- 手や指を使って操作する
- 途中で分からなくなったら確認する
- 完成まで取り組む
このうち、どの部分が難しいのでしょうか。
もしかすると、道具の操作はできるけれど、手順が分からないのかもしれません。
反対に、説明は理解しているけれど、道具の操作に難しさがあるのかもしれません。
「制作活動ができない」とまとめてしまうと、こうした違いが見えにくくなります。
まずは活動を小さく分けて、どこで手が止まっているのかを観察することが大切です。
2.理解や見通しがブロックになっていないか
一つ目は、活動の意味や手順を理解するところです。
例えば、先生が「これを作ってみよう」と伝えたとします。
子どもが活動を始めないとき、やる気がないと考えてしまうことがあるかもしれません。
しかし、何をすればよいか分かっていない可能性もあります。
ここで確認したいのは、次のようなことです。
- 何をする活動か理解しているか
- 完成した状態をイメージできているか
- 最初に何をすればよいか分かっているか
- 手順が多すぎないか
試してみるなら、完成見本を見せたり、最初の一工程だけ伝えたりする方法があります。
言葉だけでは分かりにくい場合には、写真や実物などを使うことも考えられます。
ただし、視覚的な支援がすべての子どもに適しているわけではありません。
その子が理解しやすい方法を観察しながら選ぶことが大切です。
説明を理解していても活動を始めにくいときには、「分かっているのに、なぜ動かない?」も参考にしてください。
3.感覚や運動の難しさがないか
二つ目は、身体を動かしたり、道具を操作したりする部分です。
例えば、積み木を重ねる活動でも、積み木をつかむこと、手を動かすこと、置く位置を調整することなど、さまざまな力を使います。
次のような点を観察します。
- 道具を持ちやすそうか
- 力加減を調整できるか
- 姿勢を保ちやすいか
- 音や触覚などの刺激が負担になっていないか
- 道具を変えると取り組みやすさが変わるか
同じ活動でも、道具の大きさや形を変えることで取り組みやすくなる場合があります。
大切なのは、身体の使い方だけを練習させることではありません。
課題や道具の側を調整することで、子どもが活動に参加しやすくなる可能性も考えます。
痛みや強い疲労、身体的な異常が疑われる場合には、無理に練習を続けず、必要に応じて医療職等へ相談します。
書字の場面で手指や姿勢を観察する例は、文字を書くのが苦手な子、何につまずいている?で紹介しています。
4.注意や活動の負担が大きすぎないか
三つ目は、活動に必要な注意や負担の大きさです。
最初は取り組めていても、途中から難しくなることがあります。
例えば、最初の数問はできるのに、問題数が増えると手が止まる場合。
これは説明のための架空の例です。
そのときに、課題を理解できていないと判断するのは早いかもしれません。
活動の時間や量が、その子にとって負担になっている可能性もあります。
確認したいのは、
- どのくらいの時間なら取り組めるか
- 課題の量を減らすと変化があるか
- 途中に休憩を入れるとどうか
- 周囲の刺激を減らすとどうか
といったことです。
同じ課題を何度も繰り返す前に、活動の量や条件を調整してみることが大切です。
5.伝える方法が分からず、困っていないか
四つ目は、コミュニケーションです。
子どもが活動中に困っていても、そのことを大人に伝えられない場合があります。
何を聞けばよいか分からない。
言葉が出てこない。
助けを求める方法を知らない。
そのようなことが、活動への参加を難しくしている可能性もあります。
例えば、道具が足りないときに、自分から要求することが難しい子どもがいるかもしれません。
その場合には、道具の操作を練習するだけでなく、必要な物を伝えられる方法を用意することが役立つ可能性があります。
言葉、身振り、指さし、絵カードなど、子どもに合った方法を考えます。
私は、必要なときに助けを求められることも、自立にとって大切な力だと考えています。
そのためには、子どもが助けを求めたとき、大人がその発信を受け止めることも必要です。
6.環境や課題の設定が合っているか
五つ目は、活動する環境です。
同じ子どもでも、場所や人数、周囲の音、関わる人などによって、できることが変わる場合があります。
例えば、
- 少人数なら取り組める
- 道具が整理されていると始められる
- 隣で見本を示すと分かる
- 静かな場所では集中しやすい
- 好きな題材だと取り組みやすい
といった違いがあるかもしれません。
そのような条件が見つかったら、「その環境でできた」という情報を大切にしたいと思います。
できない場面だけを見て評価するのではなく、できている場面の条件も確認する。
そこから、別の環境でも使えそうな支援を考えられます。
ただし、環境を整えれば必ずできるようになるという意味ではありません。
複数の条件が関係している可能性も考えながら、実際の反応を確認していきます。
7.ブロックが見えたら、支援を一つ変えてみる
子どもの難しさを整理できたら、次に考えたいのは具体的な支援です。
私は、次のような流れで考えることが大切だと思っています。
① どこまでできているか確認する
できない部分だけでなく、すでにできている部分を整理します。
② 難しい部分について仮説を立てる
理解、感覚・運動、注意、コミュニケーション、環境などの視点から考えます。
③ 支援や条件を変えてみる
例えば、手順を短くする、道具を変える、見本を示すなどです。
④ 子どもの反応を観察する
活動を始められたか。
どこまで自分で取り組めたか。
どのような援助が必要だったか。
子ども自身の負担はどうだったか。
⑤ 必要に応じて見立てを修正する
想定した方法で変化がなければ、別の可能性を考えます。
一つの方法を試しただけで、原因を確定したり、効果を断定したりしないことも重要です。
8.「できない」を本人の問題だけにしない
子どもができないことに出会ったとき、私たちはつい本人の力に注目してしまいます。
しかし、活動を難しくしているものは、本人の中だけにあるとは限りません。
課題の量。
説明の方法。
道具の形。
周囲の環境。
大人の関わり方。
そうしたものが、子どもにとってのブロックになっている可能性もあります。
私は、「できない子」と考えるよりも、「今、何が難しくなっているのか」を考えることを大切にしたいと思っています。
その方が、次にどのような支援をすればよいかを具体的に考えられるからです。
まとめ|できない理由を探すことは、できる条件を探すこと
子どもが活動に取り組めないとき、まず考えたいのは、どこに難しさがあるかということです。
理解や見通し。
感覚や運動。
注意や負担。
コミュニケーション。
環境や課題の設定。
これらを一つずつ確認することで、子どもの姿をより具体的に理解できるようになります。
そして、難しい部分が見えてきたら、必要な支援や環境調整を考えます。
「できない」という結果だけで終わらせず、どうすれば取り組みやすくなるかを考える。
私は、そのことが発達支援において大切だと思っています。
まずは明日の活動で、一つだけ「どの部分が難しいのだろう?」と考えてみてください。
そこから、子どもに合った支援を考えるきっかけが見つかるかもしれません。
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