発達支援・特別支援教育 基礎知識辞典 第8回
「か、か、かばん」
「……………おはよう」
話そうとしているのに、ことばがなかなか出てこない。
子どものそんな姿を見て、「どう声をかけたらいいんだろう」と迷ったことはありませんか?
私がこれまで現場でよく出会ってきたのは、ことばが詰まって、なかなか声にならない姿でした。そのとき、顔や体にぐっと力が入っている子もいました。
そんな場面を見ると、大人はつい「もう一回言ってごらん」と声をかけたくなりますよね。
でも、その一言が、子どもにとっては「話し方を直さなきゃ」というプレッシャーになることもあります。
この記事では、吃音の基本と、私が子どもと関わるときに大切にしていることを整理します。
吃音とは?
吃音(きつおん)は、話しことばが滑らかに出にくい発話の状態です。子どものころに始まるものは「発達性吃音(小児期発症流暢症)」と呼ばれ、吃音の9割以上がこのタイプとされています。[1]
コミュニケーション症群全体の中での位置づけは、基礎知識辞典 第7回「コミュニケーション症群とは?」で整理しています。
吃音の中核となる3つの症状
- ① 繰り返し(連発)
- 音や音節を繰り返します。例:「か、か、からす」
- ② 引き伸ばし(伸発)
- 音を引き伸ばします。例:「かーーらす」
- ③ 詰まり(難発・ブロック)
- ことばが出ずに、間があいてしまいます。例:「……からす」
吃音では、言いたいことがあるにもかかわらず、話しことばとして滑らかに出しにくくなることがあります。そこに吃音の難しさがあります。[2][3]
また、なんとか声を出そうとして、顔や体に力が入ったり、手足を動かしたり、目をぎゅっとつぶったりする様子(随伴症状)がみられることもあります。[1]
発達性吃音は2〜4歳ごろをピークに、ほとんどが幼児期に始まります。その後、自然に目立たなくなる子も多い一方で、続いていく子もいます。[1]
原因は「育て方」や「心の問題」ではない
子どもの発達性吃音について、「心理的なものが原因」「家庭環境のせい」と聞いたことがある方もいるかもしれません。
ですが、これは現在の専門的な考え方とは違います。
日本吃音・流暢性障害学会は、親の接し方や愛情不足を原因とする考え方を、問題のある誤った原因論として挙げています。双子研究・脳研究・遺伝子研究から、環境よりも生まれ持った体質的な要因が原因の多くを占めることが分かってきました。[1]
ASHA(米国言語聴覚協会)も、吃音には遺伝的要因や神経生理学的要因など複数の要因が関わるとし、情緒的な問題や養育スタイルが吃音を引き起こすわけではないと説明しています。[3]
かつては吃音全般が心理的な原因によるものと考えられていた時代もありましたが、今では心因性の吃音はまれだとされています。[2]
一方で、心の状態とまったく無関係というわけでもありません。
緊張や不安、疲れ、周りの反応、話す場面の負担などは、吃音の出方の波や、本人が感じるしんどさに関係することがあります。[1][3]
つまり、
「心理的な問題が原因ではない。でも、本人の緊張や不安、話すことへの負担は、支援のうえでとても大切」
ということです。
私は、「心の問題だから」と片づけないこと。そして同時に、その子の緊張や不安を見落とさないこと。この両方を大切にしています。
私が最初に見ること
吃音のある子と出会ったとき、私がまず見るのは次のようなところです。
- どの場面で吃音が出るか
- どの場所で出るか
- どの時間帯に出るか
- どのような種類の吃音が出るか
あわせて、ことばが詰まっているかどうかだけでなく、そのときの表情や体の状態も見ます。ことばが出にくいとき、顔や体に力が入っていることがあるからです。
そして、本人だけでなく、ご家族や園・学校の先生など、複数の人から様子を聞くようにしています。
吃音は、場面や相手、その日の調子によって出方が大きく変わります。[1]ASHAも、さまざまな場面での話し方を見ることや、家族・先生から「いつ出やすく、いつ出にくいか」を聞くことの大切さを示しています。[3]
だからこそ、一つの場面だけを見て判断しない。
ここは、私がとても大事にしている視点です。
本人には、どう聞く?
最初の観察の段階では、私はいきなり「吃音のこと、どう?」と聞くことはしません。
普段の会話や遊びの中で、自然に様子を見ていきます。
ただし、これは「本人に吃音のことを聞いてはいけない」という意味ではありません。
昔は「吃音に気づかせない方がよい」という対応が主流でしたが、今はその考え方は否定されています。親子で吃音について話ができる関係づくりが勧められています。[1][4]
もし子どもの方から「しゃべりにくい」「どうして、ことばがつまるの?」と話してくれたら、それは吃音について話すチャンスです。気持ちに寄り添い、話してくれたことが嬉しいと伝えることが大切だとされています。[1][2]
最初から吃音のことを問い詰める必要はない。でも、本人が気にしていることを話してくれたときには、避けずに受け止める。
この姿勢を大切にしています。
なお、子どもによっては、自分の吃音にまだ気づいていないこともあります。
関わりの基本は「待つ」
私が一番大切にしているのは、安心して話せる雰囲気をつくることです。
そして、その基本は「待つ」ことです。
子どもが話そうとしているときに、先回りしてことばを完成させない。
話し方ではなく、話の中身に注意を向けて、最後まで言い終わるのを待つ。
NIDCD(米国国立聴覚・伝達障害研究所)も、子どもが話すときは話し方ではなく内容に注目すること、言おうとしていることばを待ち、文を先回りして完成させないことを勧めています。[2]
想像してみてください。
自分が一生懸命話しているときに、途中で相手にことばを取られてしまったら、どんな気持ちになるでしょうか?
「最後まで聞いてもらえた」という経験の積み重ねが、「また話したい」という気持ちにつながっていくのだと思います。
ことばを補うのは「必要最小限」
とはいえ、あまりにもことばが出ず、本人がとても困っているように見えることもあります。
そんなとき、私は意図をくみながら、ことばを補うことがあります。
ただし、それは必要最小限です。
「○○かな?」
と、本人の言いたいことを確認する程度にとどめます。
吃音が出るたびに大人が代わりに言う、ということはしません。話すのは、あくまでも本人です。
大切にしたい関わり/避けたい関わり
| 大切にしたい関わり | 避けたい関わり |
|---|---|
| 最後まで言い終わるのを待つ | 言い直しを求める |
| 話し方ではなく、話の中身を聞く | 吃音のたびに何度も「えっ?」と聞き返す |
| 困っているときは「○○かな?」と最小限の確認 | 急かす |
| 本人が吃音の話をしたら、避けずに受け止める | 吃音を繰り返し指摘する |
避けたい関わりを続けていると、子どもが話すこと自体をネガティブに感じたり、プレッシャーを感じたりする可能性があります。
ただ、「絶対に聞き返してはいけない」というわけではありません。
本当に内容が聞き取れなかったときは、確認していいんです。
問題なのは、吃音を理由に何度も言い直させたり、話し方の修正を迫ったりすることです。
吃音には「波」がある
私の現場経験では、
- 発表のとき
- 複数人の前で話すとき
- 疲れているとき
に、吃音が出やすい印象があります。
日本吃音・流暢性障害学会も、幼児期の吃音は疲労や環境の変化などに影響されて、よくなったり悪くなったりする「波」があると説明しています。[1]また、集団の前で話す場面など、話すことへのプレッシャーが高い場面で吃音が強まりやすいことも知られています。[2][3]
ここで気をつけたいのは、これらは吃音の「原因」ではないということです。
あくまでも「出やすくなることがある条件」です。
「昨日は大丈夫だったのに、今日は多いな」ということがあっても、それは波の一つかもしれません。一喜一憂しすぎないことも大切です。
だから私は、「吃音がある」ということだけでなく、どんな状況・相手・人数・体調のときに出やすいのかを見るようにしています。
本人が気にしているかもしれないサイン
私がこれまで見てきた中で、吃音を気にしているのかもしれないと感じた姿には、
- 小さな声で話す
- 発表をしたがらない
- 無言になる
- うつむく
- 固まる
- 苦笑いする
- 緊張して顔がこわばる
といったものがありました。
ただし、こうした姿があるからといって、「吃音を気にしている」と決めつけることはできません。
ほかの理由があることもありますし、先ほど書いたように、本人が吃音に気づいていないこともあります。
あくまでも、その子の困り感や緊張を考えるための手がかりとして見ています。
吃音そのものだけでなく、話すときの表情や行動、参加の仕方まで含めて見ていくことが大切だと思っています。
支援の中心は「安心して話せる条件」
私が吃音の支援で最も大切にしていることがあります。
話し方を直すことより、安心して話せることを優先する。
そのうえで、
- 場面
- 状況
- 相手
- 人数
- 発表の方法
などを調整していきます。
場面・状況・相手・人数など、いくつもの条件が重なる中で、吃音の出方は変わります。
だからこそ、本人にとって負担になりすぎないように、いろいろな方向から工夫することが大切です。
大人でも、大勢の前でのスピーチと、気心の知れた友人との雑談では、話しやすさがまったく違いますよね?
子どもも同じです。
子どもだけに「頑張って話す」努力を求めるのではなく、周りの条件も変えていく。
これが、とても大切な支援だと考えています。
話せる条件人数方法準備
「話しやすい場面」を、ほかの場面に応用する
もう一つ、私が大事にしている方法があります。
それは、その子が話しやすい場面が分かっているなら、その条件をほかの場面にも応用していくことです。
どんな相手だと話しやすいのか。
どんな場所だと落ち着いて話せるのか。
どんなやり方なら、本人の負担が少ないのか。
話しやすい条件は、子どもによって違います。だからこそ、その子をよく観察して、その子にとっての「話しやすい条件」を見つけることから始めます。
苦手な場面だけを繰り返すのではなく、「この条件なら話しやすい」というところから、少しずつ別の場面に広げていく。
本人が力を発揮しやすい条件を、こちら側が見つけていくことも、支援の一つだと考えています。
発表の場面では、どうする?
発表で吃音が目立つ場合、「全員の前で普通に発表できるように頑張ろう」だけで終わらせないようにしたいと考えています。
本人の負担を確認しながら、
- 人数
- 相手
- 順番
- 場所
- 方法
- 事前の準備
などを調整する、という視点を持つことが大切です。
ASHAの専門資料では、米国の教育場面における合理的配慮の例として、録音・録画の活用、音読や発表の時間の延長、音読の代わりの課題、聞き手の人数の調整などが挙げられています。[3]
日本でも、吃音によって学校生活や社会生活に継続的な制限がある場合など、本人の状況に応じて学校等に合理的配慮を相談できます。障害者手帳の有無だけで対象が決まるものではありません。2024年4月からは民間事業者にも合理的配慮の提供が義務化されています。具体的な方法は、本人の希望や困りごとを伝え合い、学校等と負担が重すぎない範囲で検討します。[5]
ただし、何が合うかは子どもによって違います。発表をなくすことが正解とは限りません。
大切なのは、本人が「どのように参加したいか」を一緒に考えることです。中高生以上では、本人が望む場合に学校へ配慮を求めることが大切だとされています。[1]
「吃音をなくすこと」だけをゴールにしない
吃音は、ことばが詰まるという話し方の面だけでなく、
- 緊張や不安
- 話すことを避ける
- 自信
- 学校生活への参加
- 友達との関係
ASHAは、支援の目標を流暢さだけに置かず、吃音への否定的な反応を減らし、さまざまな場面でコミュニケーションしやすくすることも大切だとしています。吃音を隠したり避けたりしなくてよくなった結果、かえって吃音が表に出る場面が増えることもある、とも説明しています。[3]
だからこそ、私は「吃音をなくすこと」だけを唯一のゴールにはしません。
その子が何を話したいのか。どのように参加したいのか。
そこを大切にしたいと考えています。
本人がどう感じているのか。
話すことに緊張していないか。
話すことを避けるようになっていないか。
どのような関わりであれば安心できるのか。
そうしたところまで考えながら、関わり方を考えていきます。
専門機関に相談する目安
私は、吃音が長く続いていて、本人や周りが気にしている場合は、専門機関に相談することを勧めています。
NIDCDの一般向け資料(2017年3月更新)では、幼児について、
- 吃音が3〜6か月続いている
- 吃音に伴う力みなどがみられる
- 家族に吃音のある人がいる
といった場合に、評価を受けることが勧められています。[2]
また、本人や保護者が心配している、本人が話すことに否定的な反応を見せている、周りからからかわれるなどの反応を受けている、ほかのことばの課題もある、といった場合も相談のきっかけになります。[3]
3〜6か月は「相談まで必ず待つ期間」ではありません。「何年も様子を見る」必要もありません。
本人がとても困っている、話すことを避けている、力みが強い。そんなときは、早めに相談することも選択肢にしてください。
一人で抱え続けるのではなく、必要に応じて専門家にも相談しながら、その子にとってどのような環境や関わりがよいのかを一緒に考えていけると良いですね。
相談先の例
- 子どもの吃音を扱う言語聴覚士(ST)
- ことばの教室
- 吃音を診療する医療機関
おわりに
吃音を、ただ「ことばが詰まっている」という現象だけで見ない。
かといって、「心理的な問題が原因」と考えるのでもない。
その子が、
- どんな場面で話しにくいのか
- 何を負担に感じているのか
- どんな条件なら話しやすいのか
- 周りがどう関わると安心できるのか
まで見ていく。
大切なのは、「きれいに話せるようにすること」ではなく、「安心して話せること」。
そして、本人だけに話し方を変えることを求めるのではなく、周りの関わりや環境も一緒に変えていく。
話し方を直すことより先に、安心して「話したいこと」を話せることを大切にする。
私は、それが吃音のある子と関わるうえでの出発点だと思っています。
子どもの行動には、必ず理由があります。まずは、その背景を見るところからスタートしてみてください。
あわせて読みたい
参考にした公的・専門的情報
確認日:2026年10月13日
- 日本吃音・流暢性障害学会「吃音(きつおん)について」(2023年10月1日)
- NIDCD「Stuttering」(2017年3月更新)
- ASHA Practice Portal「Stuttering, Cluttering, and Fluency」
- 日本吃音・流暢性障害学会「吃音面談・臨床の手引き-初めてかかわる方へ 幼児期から学童期- 2025年改訂 インテーク版」
- 内閣府「改正障害者差別解消法が施行されました」「令和6年版障害者白書 第1章第1節2」 / 障害者白書の対象・個別判断の説明
医学・診断に関する一般情報は、公的機関・専門機関等の公開資料を確認しています。本文中の実践例や支援の考え方は、私自身の発達支援・特別支援教育の現場経験に基づくものです。すべての子どもに一律に当てはまるものではありません。

