特徴を知り、行動の背景を考え、その子に合った支援へ
「何回言っても忘れてしまう」
「分かっているはずなのに、順番を待てない」
「座っていなければいけないことは分かっているのに、すぐに立ってしまう」
こうした子どもの姿を見たとき、
「もう少し我慢できないのかな」
「分かっているのに、あえてやっているのでは?」
「もう少し頑張ればできるのに」
と思うことがあるかもしれません。
でも、私は子どもたちと関わる中で、そこで判断を終えてしまうのは一歩浅いのではないかと思っています。
ADHDのある子どもの行動を理解するときに大切なのは、
「分かっていること」と「実際にできること」は別かもしれない
という視点です。
私が関わってきた子どもたちの中には、好きなことへの集中や、「やってみよう」と動き出す力に目を見張る子もいました。難しい場面だけで、その子の力を決めないことも大切にしています。
この記事では、子どもに関わる支援者や保護者の方に向けて、特徴を知る → 行動を具体的に見る → 背景を考える → 環境・関わりを調整するという順番で、ADHDの基本と私が現場で大切にしている支援を紹介します。
医学・診断に関する一般情報には出典を付けています。「私は」「私が関わった子ども」と記した内容は、ゆうた先生自身の経験・観察・支援観であり、ADHDのあるすべての子どもに当てはまるものではありません。
ADHD(注意欠如多動症)とは?
ADHDとは、Attention-Deficit/Hyperactivity Disorderの略で、日本語では「注意欠如多動症」といい、神経発達症の一つです。「注意欠如・多動症」という表記も使われています。国立障害者リハビリテーションセンターの資料では、DSM-5-TRでの名称として「注意欠如多動症」が示されています。[1]
主な特徴として、
- 不注意
- 多動性
- 衝動性
があります。
ただし、すべての人に同じ特徴が、同じ程度で現れるわけではありません。
不注意が目立つ人もいれば、多動性・衝動性が目立つ人もいます。その両方がみられる人もいます。同じ診断名でも、特徴の現れ方や程度、生活上の困り方は一人ひとり異なります。[2] [3]
そのため、
「ADHD=落ち着きがなくて、走り回る子」
と考えるのは正確ではありません。
診断についても、「忘れ物が多い」「落ち着きがない」といった一つの特徴だけで決まるものではありません。
診断では、発達段階に比べた特徴の程度や持続、子どもの頃からの経過、家庭や学校など複数の場面での様子、日常生活への影響を確認します。似た姿につながる別の要因も含め、医師が総合的に評価します。[4]
この記事は診断チェックのための記事ではありません。生活上の困りごとが続くときは、家庭や園・学校での様子を整理し、小児科などの医療機関に相談してください。
発達障害全体の位置づけは、第1回「発達障害とは?」で整理しています。
「注意が続かない」は、どんな姿として現れる?
私が実際に子どもたちと関わっている中では、
話を聞いていたはずなのに、指示が抜けている
という姿をよく見ます。
ほかにも、
- 活動の途中で別のものに注意が向く
- 忘れ物が多い
- やっていたことから別のことへ意識が移る
といった姿があります。
ここで気をつけたいのは、
「聞く気がなかった」
とすぐに判断しないことです。
本人としては話を聞いていた。
でも、途中で別の刺激に注意が向いたり、いくつかある指示の一部が抜けたりする。
注意を向け続けることだけでなく、必要な情報を一時的に覚えておくことにも難しさがある可能性を考えます。情報を保持しながら扱う働きとADHDとの関連は、国立精神・神経医療研究センターの解説でも扱われています。[2]
そういうこともあります。
「ちゃんと聞いていたの?」
と注意する前に、
どこまで伝わっていたのか
を確認してみることが大切です。
多動性は「走り回る」だけではない
多動性というと、
「席を立って走り回る」
という姿を想像するかもしれません。
もちろん、座り続けることが難しく、離席する子もいます。
でも、私が実際に見ていると、もっと細かな身体の動きとして現れることがあります。
たとえば、
座り直すことが非常に多い。
膝を立てる。
椅子の上で正座をする。
姿勢が次々と変わる。
つまり、席には座っていても、身体は絶えず動いているということがあります。
しかも、これは苦手な課題をしているときだけとは限りません。
本人が楽しんで取り組んでいる活動でも、身体の動きが続く子がいます。
また、よく話す、話が止まりにくい、思ったことがすぐ言葉として出る、といった姿がみられることもあります。多動性と衝動性が重なっている場合などもあり、一つの特徴だけで説明しきれないことがあります。
ただし、同じ場所を行ったり来たりする、よく話す、身体を動かすといった行動があれば、すべてADHDによるものというわけではありません。
その子の発達、感覚、環境、活動内容など、ほかの可能性も含めて考える必要があります。
衝動性は、人とのやり取りでも現れる
私が衝動性を感じることが多いのは、人とのやり取りや順番がある場面です。
例えば、
手洗いの順番を待つ。
おやつを順番に取る。
活動の中で発言する。
こうしたとき、
「自分が先にやりたい」
「これが欲しい」
「答えが分かったから言いたい」
と思った瞬間に、行動が先に出ることがあります。
また、友達とのやり取りの中で、「嫌だ」と感じたことがきっかけと思われる場面で、考えるより先に相手に手が出てしまう子もいました。本人の気持ちは、外から見た行動だけでは決めつけられません。
もちろん、こうした行動がすべてADHDによるものではありません。手が出る場面では、まず本人と相手の安全を確保した上で、何が起きていたかを整理します。
ただ、
「順番を守る気がない」
「ルールを無視している」
だけで終わらせず、
気持ちが生じてから行動するまでの間を取りにくいのかもしれない
という見方も持っておきたいと思っています。
「分かっているのにできない」を理解する
これは、ADHDのある子どもと関わるときに、私が特に大切にしたいことです。
例えば、
「順番を待つ」
というルールを本人が説明できたとします。
だからといって、実際に欲しいものが目の前に来た瞬間に、自分の行動を止めて待てるとは限りません。
「座って取り組む時間だ」と理解していても、座り続けられるとは限りません。
つまり、
理解することと、実行することは別です。
ここを同じものとして考えてしまうと、
「分かっているのに、どうしてやらないの?」
となります。
そして、
「わざとやっている」
「反省していない」
「頑張ろうとしていない」
という評価につながってしまうことがあります。
私は、こうした評価は誤解であったり、背景の捉え方が一歩浅かったりするのではないかと思っています。
「何度言ってもできない」で終わらず、なぜ、その場面では実行することが難しかったのかまで考えたいのです。
理解と実行の間にある難しさは、「分かっているのに、なぜ動かない?」でも詳しく扱っています。
「頑張らない」で終わらせず、できるだけ多くの要因を見る
子どもが課題に取り組めないとき、私は原因を一つに決めるのではなく、できる限りいろいろな可能性を見ます。
例えば、
- 取り組む内容の難しさ
- 周囲の環境
- 人や物などの刺激
- 視覚的な情報の量
- 時間帯・活動する時間
- 姿勢や体勢
- 大人とのやり取り
- 疲れ具合
- 本人がその状況をどう感じていそうか
- これまでどのような経験をしてきたか
などです。
そして、
今の行動に影響している割合が大きそうなものは何だろう
と考えます。
例えば「集中できない」という同じ行動でも、
課題そのものが難しすぎる場合と、
周囲の刺激に注意を取られている場合と、
長時間取り組んで疲れている場合では、
必要な支援は違います。
だから私は、
一つの行動に、一つの理由を当てはめない
ことを大切にしています。
いくつかの仮説を持つ。
影響が大きそうな条件を変えてみる。
そのときの子どもの反応を見る。
そして、また見立てを修正する。
複数の可能性を考える → 影響が大きそうな条件を調整する → 子どもの反応を見る → 見立てを更新する。
その繰り返しが支援だと思っています。本人の気持ちについての推測は、観察した事実と分け、本人の言葉や反応も確かめながら考えます。
多動な子に「ずっと座る」ことだけを求めない
多動性がある子に対して、
「立たない」
「ずっと座っている」
ことだけを最初の目標にするとは限りません。
私は、子どもによっては、
動いてもいい、立ってもいい
というルールを作ることがあります。
その上で、
活動に戻ってくること
をまず大切にします。
安全に動ける場所や戻り方を、その子に分かる形で確認した上で、少しずつ、戻るまでの時間を短くしたり、参加できる時間を広げたりしていきます。これはすべての子に同じように使う方法ではありません。
「立った=失敗」ではありません。一度離れても、また参加できることも、大切な力です。
「離席しない子にする」のではなく、
その子が活動に参加できる方法を探す
という考え方です。
集中しやすい条件をつくる
支援では、本人への注意や努力の要求を増やす前に、まず環境を調整します。
例えば、
必要のない刺激を減らし、周囲の情報を整理する。
課題を整理し、何に取り組めばよいのかを分かりやすくする。
見通しを持てるようにする。
活動を小さく区切る。
言葉だけでは分かりにくい場合には、視覚的な情報を使う。
本人が自分で操作できる教材や活動を取り入れる。
内容によっては、自分で選択できるようにする。
こうした調整によって、参加しやすくなった子どもたちを私は見てきました。
ただし、
「ADHDなら視覚支援」
「ADHDならこの方法」
ということではありません。
実際に試して、
その子が分かりやすくなったのか、取り組みやすくなったのか
を見ることが重要です。
本人が選択し、自分で操作できる活動にする
私が関わってきた子どもたちの中には、本人に選択してもらったり、自分で物を動かしたり、操作したり、身体を使って取り組んだりすることで、集中して参加しやすくなった子がいます。
受け身で指示を聞き続けるだけではなく、本人自身が活動に参加し、操作できる環境をつくるという視点です。
これも、ADHDのある子に一律に有効という意味ではありません。その子が選びやすいか、操作しやすいか、参加しやすくなっているかを見ながら調整します。
見通しと「小さな区切り」をつくる
長い時間、一つの活動に集中し続けることだけを求めるのではなく、私は、次のことが分かるようにします。
- 何をするのか
- どこまでやるのか
- いつ終わるのか
- 次に何をするのか
活動の中に小さな区切りを設けることで、継続して参加しやすくなった子もいました。
その子が参加しやすい長さや量を探し、実際の反応に合わせて見直していきます。活動の終わり方や次への移り方は、切り替えが苦手な子への支援でも紹介しています。
指示は「してほしい行動」が浮かぶ言葉にする
言葉の伝え方も工夫します。
例えば、
「走らない」
だけではなく、
「歩こう」
と伝える。
「騒がない」ではなく、
「小さい声で話そう」
と伝える。
私は、してはいけないことだけではなく、
本人の中に望ましい行動のイメージが浮かびやすい言葉
を使うことを意識しています。
ただし、ここでも大切なのは、
言われていることが分かったからといって、必ず実行できるわけではない
ということです。
伝え方を変えることと、実際に行動できるようになるための支援は、分けて考える必要があります。
「待って」だけではなく、待っている間にすることをつくる
待つことが苦手な子に、
「待ってて」
とだけ伝えても難しいことがあります。
そんなとき私は、
待っている間に何をするのか
を決めることがあります。
何もせずに待つ時間を要求するよりも、
「これをしながら待とう」
と、待っている時間の過ごし方を具体的にする。
それだけで待ちやすくなる子もいます。
身体を動かすことを支援に使うこともある
身体を動かし続ける子や、座っていることが難しい子では、活動前に身体を動かす時間を作ることもあります。
私が関わった子どもの中には、事前に身体を動かしたり、その子に合った感覚的な活動を取り入れたりした後の方が、落ち着いて座っていられる時間が伸びた子もいました。
ただし、これは私自身の実践経験です。
すべてのADHDの子どもに同じ方法が有効という意味ではありません。
本人の反応を見ながら、その子に合っているかを判断する必要があります。
ADHDの子どもの「できる力」を見落とさない
ここまで困難さについて説明してきましたが、それだけで子どもを見ないことも大切です。
私がこれまで関わった子どもたちの中には、
「やってみよう」と思ったときの行動力がとても強い子
がいました。
好きなことに取り組んでいるときの集中力に、目を見張ることもあります。
そして、
環境、刺激、課題の難易度などが本人に合っていると、本来持っている力を大きく発揮する子
もいます。
もちろん、
「ADHDだから行動力がある」
「ADHDだから好きなことには必ず集中できる」
という意味ではありません。
大切なのは、
今見えている「できない姿」だけで、その子の能力を決めないこと
です。
環境が変わる。
伝え方が変わる。
課題の難易度が変わる。
本人が選択できるようになる。
それだけで、同じ子とは思えないほど取り組み方が変わることがあります。
だから、
「この子にはできない」
と判断する前に、
この子が力を発揮できる条件は何だろう
と考えたいと思っています。
「大人を困らせる子」ではなく、その子自身が困っているのかもしれない
ADHDのある子どもの行動は、ときに周囲の大人を困らせます。
何度言っても忘れる。
順番を待てない。
授業中に立つ。
友達とのトラブルになる。
言われたことをすぐに実行できない。
大人から見れば、
「困った行動」
に見えるかもしれません。
でも、その子は、
大人を困らせようとしているのでしょうか。
私は、そう決めつける前に、
子ども自身が困った結果として、その行動が表れているのではないか
と考えたいと思っています。
もちろん、すべての行動の理由を「ADHDだから」「本人が困っているから」と一つに決めることはできません。
だからこそ、目の前の行動から、
「この子は何に困っているんだろう」
「何があればやりやすくなるんだろう」
と、もう一歩考えてみることが大切です。
関連記事・参考にした公的情報
基礎知識辞典の第1回「発達障害とは?」と第2回「自閉スペクトラム症(ASD)とは?」も、あわせてご覧ください。
医学・診断に関する説明は以下の公開資料を確認しています。支援の具体例はゆうた先生自身の経験であり、運動や感覚的な活動の医学的効果を示すものではありません。
確認日:2026年9月22日
- [1]国立障害者リハビリテーションセンター 発達障害情報・支援センター「支援者向けテキスト版(日本語版)」(DSM-5-TRでの名称・特徴)
- [2]国立精神・神経医療研究センター病院「“ADHDタイプ”の方の対処策①」(特徴の現れ方・ワーキングメモリー)
- [3]CDC「Symptoms of ADHD」(不注意優位などの現れ方、2026年7月30日レビュー)
- [4]CDC「Clinical Care of ADHD in Children」(発達段階、複数場面、生活への影響などの評価)
- [5]厚生労働省「こころの耳」ADHDの用語解説(特徴の持続と日常生活の困難。資料の見出しは旧来の表記)
ADHDのある子どもと関わるときに大切にしたい4つのこと
最後に、私が特に伝えたいことを四つにまとめます。
一つ目。
分かっていることと、実行できることは別です。
知識として分かっているからといって、その瞬間に行動をコントロールできるとは限りません。
二つ目。
「我慢できない」「頑張らない」で終わらせず、もう一歩深く見てください。
課題、環境、刺激、時間、姿勢、疲労、経験。
その行動につながっているものは何なのかを考えてみます。
三つ目。
本人だけを変えようとせず、その子が力を発揮できる環境をつくってください。
本人に学んでもらうこと、練習してもらうことも必要です。
でも、本人だけに努力を求める必要はありません。
環境も変えられます。
課題も変えられます。
伝え方も変えられます。
大人の見方も変えられます。
四つ目。
大人を困らせるための行動と決めつけず、子ども自身が困った結果として表れている可能性を見る。
すべての行動の理由を一律に決めるという意味ではありません。「この子には今、何が起きているのだろう」と考えるところから始めます。
「困らせる子」と見るのではなく、
「この子自身は、今、何に困っているんだろう」
と考える。
そこから、その子に合った支援が始まるのだと思います。
子どもの行動には、必ず理由があります。まずは、その背景を見るところからスタートしてみてください。

