3分で基礎が分かる|発達支援・特別支援教育 基礎知識辞典 第4回
この記事の要点
- SLDは、読字・書字表出・算数などの特定の学習領域に持続的な困難がみられる神経発達症です。成績だけで診断するものではありません。
- 「読めない」「書けない」と「理解できない」を分け、何が分かっていて、どこから難しいのかを見ます。
- 本人が理解や考えを示しやすい方法を一緒に探し、その方法で学びやすくなったかを確かめます。
以下の一般情報は公的・一次資料で確認しています。「私」として述べる経験・支援観は、ゆうた先生本人への取材に基づくものです。個々の姿をSLD全体の特徴として一般化するものではありません。
「音読がとてもゆっくり」
「漢字をなかなか覚えられない」
「計算はできても、文章題になると急に難しくなる」
こうした姿があると、
「勉強が苦手なのかな」
「練習量が足りないのかな」
と思われることがあります。
しかし、学習の難しさを見るときに大切なのは、「勉強ができる・できない」という大きなくくりだけで判断しないことです。
読むことなのか。
書くことなのか。
計算することなのか。
式を立てることなのか。
文章の意味を理解することなのか。
子どもがどこでつまずいていて、何なら理解できているのかを、できるだけ細かく見ていく必要があります。
この記事では、限局性学習症(SLD)について基礎から整理しながら、支援現場で子どもの学びをどのように見ていけばよいのかを考えていきます。
限局性学習症(SLD)とは?
限局性学習症(Specific Learning Disorder:SLD)は、神経発達症の一つとして位置づけられています。読字には正確さ・流暢さ・読解、書字表出には綴りや文章表現、算数には計算や数学的推論などが含まれます。[1]
医学的には、読字、書字表出、算数など、特定の学習領域で持続的な困難がみられる状態について、発達歴や教育歴、検査、学校での様子、これまでの教育的介入とその反応などを含めて総合的に評価されます。学習機会や、ほかの要因による困難との区別も必要です。[1・2]
単に、
「国語が苦手」
「算数の点数が低い」
というだけで判断するものではありません。
また、教育現場で使われる「LD(学習障害)」という言葉と、医学的な「限局性学習症(SLD)」では、指している範囲が必ずしも完全には一致しません。
文部科学省の教育上のLDの定義では、基本的に全般的な知的発達の遅れはないものの、聞く・話す・読む・書く・計算する・推論する能力のうち、特定のものの習得と使用に著しい困難を示す状態とされています。ほかの障害や環境の影響が直接の原因である場合とは区別されます。[3]
ここでいう教育上のLDと、医学的な診断名であるSLDは、同じ範囲を指す言葉ではありません。ただし、医学的なSLDにも数学的推論の困難が含まれるため、「推論は教育上のLDだけの領域」という意味でもありません。[1・3]
そのため、この記事では診断名だけで子どもの姿を決めるのではなく、
「その子が、どの学習場面の、どの部分で難しくなっているのか」
を見ることを大切にします。
「勉強が苦手」と大きくまとめない
私は子どもの学習を見るとき、
「勉強が苦手ですね」
だけでは終わらせないようにしています。
例えば、
- 読むこと
- 書くこと
- 計算すること
- 式を立てること
- 数学的な考え方
- 文章から必要な情報を取り出すこと
- 推論すること
など、できるだけ細かく見ていきます。
さらに、
「国語が苦手」
「算数が苦手」
という教科単位だけでも見ません。
同じ算数でも、
「数の大小は分かるけれど、九九が定着しにくい」
「計算はできるけれど、文章題になると式を立てにくい」
といったことがあります。
同じ国語でも、
「内容を聞けば理解できるけれど、自分で読むと意味が入りにくい」
ということがあります。
ゆうた先生読むことが難しいとき、どんな姿がある?
私が実際に関わってきた子どもの中では、
- 音読が極端にゆっくり
- 一文字ずつ読む「逐字読み」になる
- 文字を飛ばす
- 視線の動きに難しさがあるように見える
といった姿がありました。
特に印象に残っているのは、
読むことそのものに、とても多くの力を使っている子どもたちです。
私には、一文字ずつ確かめて読むことに多くの力を使い、文章の意味を考えるところまで十分に力を回せていないように見えることがありました。これは、関わりの中での私の見立てです。
そのため、
「文章を読んだけれど内容が分からなかった」
という結果だけを見て、
「理解力がない」
と判断するのは早いかもしれません。
読むことへの負荷を減らしたときに、その子がどこまで内容を理解できるのかを見る必要があります。
なお、逐字読み、文字を飛ばすこと、視線の動きの難しさだけでSLDと判断することはできません。「目の動き」は私の観察であり、眼球運動の問題がSLDの原因だと述べているものではありません。
あくまで、その子の学習上の難しさを詳しく見るための一つの観察材料です。
書くことが難しいとき
書くことにも、いくつもの段階があります。
私が現場で見てきた姿としては、
- 漢字や文字の形を覚えにくい
- 鏡文字になることがある
- 書くことにとても時間がかかる
- 見本を見て書き写す「視写」が難しい
- 考えはあるのに文章として書き出せない
といったものがあります。
鏡文字や視写の難しさも、それだけでSLDを示すものではありません。
ここで特に大切だと思うのが、
「書けないこと」と「考えられないこと」は別かもしれない
という視点です。
口頭で聞けば、
しっかり説明できる。
自分の考えも持っている。
内容も整理できている。
それなのに、
「じゃあ書いてみよう」
となった瞬間に、なかなか言葉が出てこない子がいます。
書字そのものに多くの力を使うことで、考えている内容を文章へ変換するところまで十分に力を使えないことも考えられます。
そのため、
書けない=理解していない
と短絡的に判断しないことが大切です。
書くことのつまずきをさらに詳しく整理したい方は、「文字を書くのが苦手な子、何につまずいている?」もご覧ください。
算数・計算の難しさも一つではない
算数についても、難しさはさまざまです。
私が現場で見てきた中では、
- 公式を覚えにくい
- 九九が定着しにくい
- 繰り上がり・繰り下がりが難しい
- 掛け算や割り算の感覚を身につけにくい
- 計算手順を覚えて使うことが難しい
- 文章題になると難しくなる
- 式を立てることが難しい
といった姿があります。
一方で、私が関わった範囲では、数の大小そのものは比較的よく分かっている子もいました。これはSLDのある子ども全体の傾向ではなく、私の経験です。
つまり、
「数が分かること」と「算数・数学全体が分かること」は同じではありません。
数そのものは分かっていても、
その情報を文章から読み取り、
必要な数を選び、
関係を考え、
式を立て、
計算手順を使う、
という一連のどこかで難しくなることがあります。
そのため、
「数が分かっているから、算数も分かるはず」
とも言い切れません。
「読めない」と「理解できない」を分ける
支援するとき、私はできるだけ、
課題の本質ではない負荷を減らす
ということを考えます。
例えば算数の文章題で、確認したいのが、
「文章を音読できるか」
ではなく、
「数量関係を理解して式を考えられるか」
なのであれば、文章はこちらで読んでもよい場合があります。
そこで、
「この問題は、何を考えればいいのか」
を一緒に確認します。
すると、
自分で文章を読むと解けなかった子が、
読み上げてもらうことで内容を理解し、正しく考えられる場合があります。
このとき分かるのは、
その子は「理解できない」のではなく、「読むことの負荷によって理解するところまで届きにくかった可能性がある」
ということです。
読み上げれば誰でも理解できる、という意味ではありません。課題の目的と本人の反応を確かめながら、どの部分に難しさがあるのかを見ていきます。
これは書くことでも同じです。
「書く」以外の方法で理解を確かめてもいい
子どもが理解したことを表す方法は、紙に書くだけではありません。
私は、
- 口頭で説明してもらう
- 具体物を動かしてもらう
- 図やビジュアルを使う
- 実際に操作しながら答えてもらう
といった方法も使います。
こうすることで、
「自分は分からない」
と思っていた子が、
「これなら分かる」
「自分にもできた」
と感じられることがあります。
これは、苦手な学習を一律に省くということではありません。



教育現場でも、ICTや音声読み上げ、文字サイズ・行間の調整、課題の量や内容の調整、口頭による評価などが、本人の実態に応じた合理的配慮・指導上の工夫として示されています。得意な方法を使って理解・表現できるよう、学習や評価の目的、本人・保護者の意向を学校と共有して検討します。[4・5]
その場で理解できたことと、定着したことは別
もう一つ重要なのが、
「今日分かった」ことと「定着した」ことは別
という点です。
具体物を使えば理解できた。
一緒に考えれば式を立てられた。
その場では正しく答えられた。
だからといって、次の日から一人で同じことができるとは限りません。
新しく理解したことが安定して使えるようになるまでには、一定の時間が必要な場合があります。
「昨日できたでしょう」
ではなく、
今どの段階なのかを見る必要があります。
「練習量が足りない」で終わらせない
SLDのある子どもについて、
「練習量が足りない」
「もっと書けば覚える」
と考えられることがあります。
もちろん、学習には練習が必要です。
しかし、本人にとって非常に難しい方法を、そのまま何度も繰り返せばよいとは限りません。
例えば、
漢字の形を捉えること自体に強い難しさがある子に、
「とにかく20回、30回書きなさい」
と同じ方法を繰り返す。
それで本当に覚えやすくなっているのかを見る必要があります。
難しさを「努力不足」と決めつける前に、同じ方法を繰り返すことが本人の学びにつながっているか、一緒に確かめたいと思います。
大切なのは練習の回数だけではなく、
「この子には、どんな方法なら理解しやすいのか」
を考えることです。
「読めない=理解できない」ではない
現場では、
「読めないから理解できていない」
「書けないから考えられていない」
と捉えられてしまうことがあります。
でも実際には、
読み上げれば分かる。
口頭なら説明できる。
図にすると分かる。
具体物を動かすと理解できる。
という子がいます。
だからこそ、
読み・書き・計算などの表面的な結果と、その子自身の理解を分けて考えること
が必要です。
その子にとって「分かりやすい方法」を探す
私の大学時代の先輩に、本人から「数の領域の学習障害がある」と聞いていた方がいました。
以前、
「計算はどうしているんですか?」
と聞いたことがあります。
その方は、
自分が計算しやすい方法を自分なりに考えながら取り組んでいる、
という話をしていました。
その方は大学受験も経験し、大学で学んでいました。
もちろん、この一人の経験をSLDのある人全体へ一般化することはできません。
ただ、この経験から私は、
一般的な方法が難しいからといって、「理解できない」と決めなくていい
と感じています。
一般的な方法が難しくても、その人に合った方法を探すことで、学びやすくなる場合があるのだと思います。努力すれば誰でも大学に進める、工夫すれば困難がなくなる、という成功談として伝えたいわけではありません。
分かりやすい方法は、一人ひとり違う
実際に子どもたちを見ていても、
理解しやすい方法は違います。
具体物を使うと理解しやすい子。
図やビジュアルにすると分かりやすい子。
一つずつステップを踏めば理解できる子。
最初に全体像を簡単に示し、見通しが持てると分かりやすい子。
それぞれ違います。
だから、
「SLDにはこの方法」
と決めるのではなく、
その方法を使った結果、目の前の子どもが本当に分かりやすくなったか
を見ることが大切です。
教科ではなく、もっと細かく見る
「国語が苦手」
「算数が苦手」
という言葉だけでは、支援方法はなかなか見えてきません。
例えば算数でも、
数そのものは理解している。
九九が難しい。
文章題になると難しい。
式を立てるところで止まる。
計算手順を忘れる。
それぞれ支援するポイントは違います。
国語も同じです。
読むことなのか。
意味を取ることなのか。
漢字を書くことなのか。
文章を作ることなのか。
視写なのか。
さらに細かく見る必要があります。
細かく見ていくことで、
今どこにつまずいているのか
何は分かっているのか
どういう条件なら分かるのか
が少しずつ見えてきます。
関連記事・参考資料
基礎知識を続けて読む:
学習の困りごとを言葉にしにくいときは、子どもが「困った」と言えないときの支援も参考にしてください。
一般情報の確認に用いた資料(2026年9月23日確認):
- [1]発達障害ナビポータル「限局性学習症」(2024年3月29日公開)
- [2]米国精神医学会(APA)「What Are Specific Learning Disorders?」(診断の総合的な評価について)
- [3]文部科学省「主な発達障害の定義について」(教育上の学習障害の定義)
- [4]国立特別支援教育総合研究所 発達障害教育推進センター「学習障害(LD)」
- [5]文部科学省「総則・評価に関する参考資料」(2025年9月24日、合理的配慮の例)
最後に|その子に合った学び方を、一緒に考える
限局性学習症のある子どもに必要なのは、
本人にとって難しい方法を、ただ繰り返し続けさせることではないと私は考えています。
まず、
「これなら分かるかもしれない」
と思える内容やレベルを探す。
そして、
「この方法なら分かりやすい」
という方法を一緒に考える。
さらに、
「読めない」
「書けない」
「理解できない」
を同じものとして扱わず、一つひとつ切り分ける。
「算数が苦手」
「国語が苦手」
という大きなくくりだけでなく、もっと細かなところを見る。
そうすることで、
その子が今どこにつまずいていて、
何が分かっていて、
どういう工夫があれば理解できるのかが見えてきます。
その子に合った学び方を、一緒に考えていくこと。
それが、支援する側にとってとても大切なことだと思います。













