「できたときには、たくさん褒めています。でも、次の場面ではまた難しくなります」
先生や支援者から、このような話を聞くことがあります。
子どもを褒めることは大切です。しかし、大人が褒めたことと、子どもがそこから学んだことは、必ずしも同じではありません。
「すごいね」「えらいね」と言われて、うれしい気持ちになる子もいます。大人が一緒に喜んでいることも伝わります。一方で、
- 自分の何がよかったのか
- どの方法を次も使えばよいのか
- その行動によって何が起きたのか
までは、つながっていないことがあります。
以前の記事「『ほめる』ことの大切さ ~たくさんほめよう!~」では、褒めることの意味と、具体的に伝える基本を整理しました。
今回は、その一歩先です。
褒めた後に、子どもへ何が伝わったのか。次の行動を選ぶ手掛かりになったのか。ならなかったときは、褒め方以外のどこを見直すのか。
私が実際に関わった場面をもとに、五つの視点から考えます。
この記事で伝えたいこと
大切なのは、「褒めたかどうか」だけではありません。その子に何が伝わり、次に使える手掛かりになったかです。
「喜びを伝える褒め言葉」と「学びを支えるフィードバック」
「すごいね」「えらいね」「よくできたね」という言葉を、やめる必要はありません。
できたことを一緒に喜ぶ。頑張りを認める。自分のことを見てもらえたと感じる。こうした関わりには、子どもとの関係を育てる大切な意味があります。
一方で、覚えてほしい行動や方法がある場面では、喜びに加えて情報も必要です。
例えば、
「今、○○ちゃんに先に貸してあげたね。待っていた○○ちゃんも使えたね。よくできたね」
と伝えます。
「よくできたね」が喜びを伝える言葉だとすれば、「先に貸した」「待っていた友達も使えた」は、自分の行動と結果を振り返るための情報です。
どちらか一方に決める必要はありません。自然な喜びと、次に使える具体的な情報。その両方を届けることができます。
1.大人が何を言ったかより、子どもが何を受け取ったかを見る
褒めた後、子どもの心の中に何が残ったかを、大人が直接見ることはできません。
だからこそ、「具体的に褒めたから伝わったはず」と決めず、その後の姿を見ます。
- 褒めた行動を、別の場面でも試したか
- 「ここに入れるんだよね」など、方法を言葉や動作で確かめたか
- うなずく、笑う、視線を向けるなど、言葉を受け取った様子があったか
- 高いテンションや周囲の視線に意識が向き、内容を確かめにくそうではなかったか
- 褒められることを避けたり、活動を止めたりしていないか
私の実践では、先生の褒めるテンションが高すぎると、その反応の大きさに意識が向き、「何がよかったのか」までは受け取りにくそうに見える場面がありました。
ただし、明るく大きく褒められることや、驚きを交えて伝えられることを喜ぶ子もいます。高いテンションがよくないのではありません。その子に届く強さだったかを見ることが大切です。
褒めた側の意図ではなく、褒めた後の子どもの姿まで含めて、関わりを振り返ります。
2.できた行動と、その結果を短くつなげる
友達に遊具を譲れた場面で、私は次のように伝えたことがあります。
「今、○○ちゃんに先に貸してあげたね。待っていた○○ちゃんも使えたね」
その後、同じような場面で、もう一度友達に譲る姿が見られました。
一度の褒め方だけが、その後の行動を変えたとは言い切れません。活動の状況や友達との関係など、ほかの要因もあります。それでも、何をしたかと、その結果を一緒に伝えたことが、次にどうすればよいかを考える一つの手掛かりになった可能性があります。
このとき、
「優しい子だね」
と、子ども全体を評価することから始めるより、まず見えた行動を伝えます。
「先に貸してあげたね」
「待っていた友達も使えたね」
これなら、子ども自身が「何をしたのか」を確かめやすくなります。
ただし、友達にいつも譲ることが正解ではありません。
「今使っているから、あとでね」と伝えること。順番を相談すること。断ること。相手に待ってもらうこと。どれも状況に応じて必要な行動です。
大人にとって都合のよい行動を褒めるのではなく、子どもが人と関わるために使える選択肢を増やしていきます。
3.「次も使える方法」まで言葉にする
片づけの場面でも、何ができたかだけでなく、使った方法までつなげます。
例えば、ブロックを色分けされた箱へ戻せたときです。
「ブロックを同じ色の箱に入れられたね。次もこの箱に入れれば片づけられるね。よくできたね」
ここでは、四つのことを届けています。
- 行動:ブロックを箱に入れた
- 手掛かり:同じ色を見た
- 次の方法:次もこの箱を使える
- 喜び:よくできたね
実際の支援でも、片づけ方をこのように確かめた後、次の場面で同じ方法を使えることがありました。
「次もできるね」が期待や重圧になりそうな子には、
「次も、この色の箱が目印になるね」
と、子どもを評価する言い方ではなく、使える手掛かりを示す言い方に変えます。
褒める言葉を増やすことが目的ではありません。子どもが次の場面で思い出せる情報を、一つ残すことが目的です。
4.内容・タイミング・強さを、その子の受け取り方に合わせる
同じ言葉でも、どのように届けられたいかは一人ひとり違います。
私が関わってきた子どもたちにも、次のような違いがありました。
| 受け取りやすかった褒め方 | 関わるときの考え方 |
|---|---|
| 静かに、短く伝える | 情報を増やさず、伝えたい行動を一つに絞る |
| 人前ではなく、一対一で伝える | 周囲の注目や恥ずかしさが負担になっていないかを見る |
| 笑顔、うなずき、ハイタッチで伝える | 言葉以外が届きやすい子もいる。身体接触は本人が望む場合に行う |
| 少し時間を置いて伝える | まず落ち着く時間を取り、後から一緒に振り返る |
| 明るく大きく伝える | 大きな喜びを一緒に楽しめる子には、自然な範囲で届ける |
| 驚きを交えて伝える | 本人が喜ぶ場合に使う。「できないと思っていた」と受け取られない表現にする |
新しい行動を覚えている段階では、できた行動に近い時点で短く伝えると、何についての言葉かを結びつけやすくなります。
一方で、その瞬間は刺激を受け止めにくい子もいます。その場合は、うなずきなどで短く返し、少し落ち着いてから、写真や実物を見ながら振り返る方法もあります。
大切なのは、決まった褒め方を当てはめることではありません。
内容 × タイミング × 声の強さ・テンション × その子の受け取り方
この組み合わせを、子どもの反応を見ながら調整します。
5.次につながらないときは、褒め方以外も見直す
具体的に褒めれば、どの子も行動できるようになるわけではありません。
そもそも子どもが、
- 友達へ貸すときの言葉や動きを知らない
- どのタイミングで交代すればよいか分からない
- 片づける場所を見分けられない
- 片づける量が多く、どこから始めればよいか分からない
- 課題が難しすぎる
- 周囲の音や人の動きが多く、行動しにくい
という状態なら、褒めるだけでは十分ではありません。
そのようなときは、
- 大人が実際に見本を見せる
- 「あと一回使ったら貸す」など、具体的な方法を教える
- 人形や大人とのやり取りで練習する
- 最初の一つを一緒に片づける
- 箱に写真や色の目印を付ける
- 一度に扱う量を減らす
- 活動の難しさや周囲の環境を調整する
といった支援を組み合わせます。
褒めることは、主に行動した後に返す言葉や反応です。行動する前に必要な理解、見本、練習、環境まで、褒めることだけで整えられるわけではありません。
「分かっているのに動けない」背景と支援の分け方は、「分かっているのに、なぜ動かない?」でも詳しく整理しています。
褒めても次につながらないときは、褒める回数や声の大きさを増やす前に、「この子は、その行動をどうすれば実行できるだろう」と見直します。
褒めることを、子どもを動かすためだけの手段にしない
褒め方を工夫するという話をすると、「大人の望む行動へ子どもを誘導することにならないか」と感じる方もいるかもしれません。
この心配は、忘れてはいけないと思います。
褒めることの目的は、大人の評価を得るために行動する子どもをつくることではありません。
できたときだけ関係が近くなり、できなかったときには離れるのでもありません。できても、まだできなくても関係を保ちながら、うまくいった瞬間には一緒に喜び、その経験を本人が使える方法にしていきます。
慣れてきたら、大人が評価するだけでなく、
- 「どうやったらできた?」
- 「どこを見たら分かった?」
- 「次はどうしたい?」
と聞き、子ども自身が方法や結果を振り返れるようにします。言葉で答えることが難しければ、指差しや実演で確かめても構いません。
最終的に目指したいのは、褒められ続けなければ動けないことではなく、子どもが自分に合う手掛かりや方法を少しずつ増やすことです。
明日から使える「褒めた後」の確認
褒める前後で、次の五つを確かめてみてください。
| 確認すること | 問い掛ける内容 |
|---|---|
| 1.行動 | 今、どの行動を言葉にするのか |
| 2.結果・方法 | その行動で何が起き、どの手掛かりを使ったのか |
| 3.届け方 | 声量、テンション、場所、タイミング、言葉以外の方法は合っていたか |
| 4.学び方 | その子は、そもそもやり方を知っていたか。見本や練習は必要か |
| 5.環境 | 今の難しさ、量、周囲の刺激で、その行動を実行できる状態だったか |
最初から全部を変える必要はありません。
まず一つの場面を選び、
- 見えた行動を短く言う
- 結果か、次に使える手掛かりを一つ添える
- その後の子どもの表情、言葉、動作、次の場面を見る
という流れから始めます。
うまくつながらなければ、子どものやる気の問題にせず、届け方、教え方、課題、環境のどこを調整するかを考えます。
まとめ|大切なのは、褒めた回数より、その子に残った手掛かり
「すごいね」「えらいね」は、なくすべき言葉ではありません。できたことを一緒に喜び、頑張りを認める大切な言葉です。
ただ、次の行動につなげたい場面では、その言葉に具体的な情報を添えます。
- 何をしたのか
- その行動で何が起きたのか
- どの方法を次も使えるのか
- どの届け方なら、その子が受け取りやすいのか
- 褒める前に、見本・練習・環境調整が必要ではないか
褒めたことが次につながらないとき、「もっと大きく、もっとたくさん」と考えるだけではなく、その子に何が伝わったのかを見直してみる。
大切なのは、私たちがうまく褒められたかではありません。
その関わりによって、子どもが自分の行動を理解し、次に使える手掛かりを一つ増やせたかどうか。
そこまで見届けることが、褒めることを子どもの学びに変えていくのだと思います。
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「褒めても次につながらない」と感じたときも、子どもの行動の前後を整理すると、言葉、教え方、課題、環境のどこを見直すか考えやすくなります。
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参考にした資料
- 米国教育省 Institute of Education Sciences / What Works Clearinghouse(2024)“Teacher-Delivered Behavioral Interventions in Grades K–5”
教室で期待する行動をモデルで示して教えることと、その行動が見られたときに肯定的な注目や褒め言葉で認めることを、それぞれ強い根拠のある推奨として示しています。詳細版では、行動や努力に焦点を当て、本人の好みや受け止め方に応じて褒め方を調整することも述べられています。 - 米国教育省 What Works Clearinghouse(2023)“Class-Wide Function-Related Intervention Teams (CW-FIT): Intervention Brief”
対象となる行動を定義し、理由を説明し、練習と視覚的な手掛かりを用意したうえで、教師がその行動をどのようにできたかを具体的に伝える構成が整理されています。褒めることだけでなく、教えることや練習を組み合わせる根拠として参照しました。 - 文部科学省(2018)「特別支援学校教育要領・学習指導要領解説 自立活動編(幼稚部・小学部・中学部)」
人との関わりやルールに難しさがある場合の指導例として、場面や状況を理解するための具体的な指導、ロールプレイ、必要な言葉の練習などが示されています。 - Kamins, M. L., & Dweck, C. S.(1999)“Person versus process praise and criticism: implications for contingent self-worth and coping”
5~6歳児を対象とした二つの実験で、人全体や特性を評価する言葉と、過程・結果に焦点を当てる言葉を比較した研究です。対象と条件が限られるため一般化はできませんが、子ども全体を評価するより、見えた行動や方法を言葉にする際の参考にしました。
※米国の公的ガイドは主にK–5の教室を対象とし、学術研究には少人数や限定された課題の研究も含まれます。本文の実践例は、ゆうた先生が支援現場で経験した場面を、個人が特定されない形に一般化して記載したものです。「具体的に褒めれば必ず次の行動につながる」「高いテンションでは内容を理解できない」といった効果を示すものではありません。年齢、発達、本人の意思、健康状態、活動内容、関係性、環境に応じて調整してください。

