3分で基礎が分かる|発達支援・特別支援教育 基礎知識辞典 第6回
この記事の要点
- DCDは、単に「体育やスポーツが苦手」ということではありません。
- 粗大運動、手先の操作、力加減、目と手を合わせた動きなど、さまざまな場面に難しさが表れることがあります。
- 大切なのは「できた・できない」だけでなく、動作のどこで難しくなっているかを見ることです。
- 練習だけでなく、道具や課題、環境を本人に合わせることも支援になります。
- 身体の動きは体育だけではなく、食事、書字、道具操作、遊び、制作など生活全体に関係します。
医学・診断に関する一般情報は公的・専門的資料と照合しています。「私」として述べる観察・経験・支援例は、ゆうた先生本人への取材に基づくものです。DCDのあるすべての子どもに共通する特徴や効果を示すものではありません。
「運動が苦手なのは、ただの運動不足でしょうか」
「はさみや箸がなかなかうまく使えません」
「文字が枠からはみ出してしまいます」
こうした姿を見たとき、「不器用なのかな」「もう少し練習すればできるのかな」と考えることがあります。
もちろん、経験や練習の量が影響することはあります。
ただ、子どもの身体の使い方を見るときに、単に「運動が得意か、苦手か」だけでは捉えきれないことがあります。
発達性協調運動症(Developmental Coordination Disorder:DCD)は、身体の動きを協調させる技能を身につけたり、実際に使ったりすることに難しさがあり、それが日常生活や学習、遊びなどに影響する神経発達症です。
この記事では、DCDの基礎知識とともに、支援の現場で「身体の動きのどこを見るのか」「どのように支援を考えるのか」を整理します。
発達性協調運動症(DCD)とは?
DCDは、神経発達症の中の運動症群に位置づけられています。[2]
DCDでは、年齢や、それまでに運動技能を学ぶ機会があったことを踏まえても、協調した運動技能を身につけたり実行したりすることに明らかな難しさがみられます。[2][3]
そして、その難しさが、
- 日常生活
- 学校生活
- 学習
- 遊び
- 余暇活動
などに持続的で明らかな支障を生じていることも重要です。[3]
また、症状が発達早期からみられることや、その運動の難しさが知的発達の状態、視覚の問題、脳性麻痺などの神経疾患だけではより適切に説明できないことなども含め、医師を含む専門職が総合的に評価します。[3]
つまり、
「運動が苦手だからDCD」
と判断するものではありません。
一つの姿だけで診断するのではなく、その子の発達経過、生活への影響、運動技能、ほかの要因などを総合的に見ていく必要があります。
「運動が苦手」だけでは見えないもの
私が子どもの身体の動きを見るときには、単に、
「走れるか」
「ボールを投げられるか」
「体育が得意か」
だけを見ているわけではありません。
例えば、
- 力をどの程度入れるか
- 対象との距離をどう捉えているか
- 動いているものに合わせて自分も動けるか
- 身体の複数の部分を組み合わせて動かせるか
- 目で見た情報に合わせて手を動かせるか
といったところを見ています。
DCDについても、はさみや食器の使用、書字、自転車、スポーツなど、生活のさまざまな動作に困難が表れることがあります。[1]
「できたか」だけでなく、動きの途中を見る
もう一つ、私が大切にしているのが、
動作の結果だけではなく、そこに至るまでの動きを見ること
です。
例えば、
- 動きに大きなブレやカクつきがないか
- 滑らかに動けているか
- 細かなやり直しや修正を何度もしていないか
- 次の動きを予測しているように見えるか
- 動きながら必要な調整ができているか
- 最終的に目的の動作につながっているか
といったところを見ます。
ここでいう「予測している」というのは、本人の頭の中を直接確認しているという意味ではありません。
あくまで、実際の動きを見たときの支援者側の見立てです。
「できた/できなかった」の二択だけで見るより、
どこまではスムーズで、どこから調整が難しくなっているのか
を見る方が、次の支援につながりやすいと考えています。
手先の動きでは、どんな姿がある?
私が現場で実際に見ることがあるのが、はさみ、書字、箸などの難しさです。
以下は私の現場での観察であり、これらの姿だけでDCDを診断することはできません。
はさみ
例えば、
- はさみをうまく持てない
- 持つことはできても、自分で刃を開きにくい
という子がいます。
「きれいに切れない」という結果を見る前に、
そもそも、持つ・開くという段階はできているのか
を見る必要があります。
書字
文字を書く場面では、
- 力加減を調整しにくい
- 枠からはみ出す
- 文字が大きくなってしまう
といった姿を見ることがあります。
ただし、
「枠からはみ出す=力加減が原因」
と一つに決めることはできません。
どの動作で難しくなるのかを、さらに細かく見ていきます。
箸
箸でも、一般的な持ち方とは違う形のまま、何とか使おうとしているように見える子がいます。
このときも、
「持ち方が正しいか」
だけを見るのではなく、
本人が実際に操作しやすいか、どこで難しくなっているか
を見ることが大切だと思っています。
「本人を練習させる」だけが支援ではない
例えば、通常のはさみを持ったり開いたりすることが難しい子に対して、私はカスタネットばさみに変えることがあります。
実際に道具を変えたことで、取り組みやすさが生まれ、意欲的に活動でき、切る動作もスムーズになった場面がありました。
この経験からも、
子どもが道具に合わせるだけでなく、道具を子どもに合わせる
という考え方は大切だと思っています。
DCDの支援でも、本人が実際に行いたい活動に焦点を当てた支援や、環境・道具を調整して参加しやすくする考え方が重視されています。[1][3]
通常のはさみを使う練習をすることと、
「今、切る活動に参加するために使いやすい道具を使うこと」
は、分けて考えてよいと思います。
書字も、一度に全部を練習しない
例えば、文字が枠からはみ出してしまう子がいたとします。
そのとき、いきなり、
「枠の中にきれいな文字を書こう」
と求めると、
- 文字の形を思い出す
- 鉛筆を操作する
- 力を調整する
- 枠を見る
- 大きさを調整する
といった複数のことを、一度に行わなければなりません。
そこで私は、まず課題を分けます。
枠を意識する練習
枠を見ることが目的であれば、書くものは文字でなくても構いません。
本人が簡単に書ける、
- 線
- 丸
- 記号
などを使います。
まずは、
「枠を見る」「枠の中に入れる」
ことだけに集中できるようにします。
その後、さまざまな大きさの枠がランダムに並んだ紙を使い、同じ記号を、その都度枠の大きさに合わせて書いていくこともあります。
大きさを見て、自分の動きを調整する経験を作っていきます。
文字の大きさを調整する
文字がいつも大きくなってしまう場合も、
「もっと小さく書いて」
と伝えるだけではなく、
大きく書く。
小さく書く。
大きな紙に書く。
小さな枠に書く。
といった経験を使いながら、
自分で大きさを変える
ことを意識できるようにしていきます。
力加減は、書字以外でも経験する
力加減が難しい場合は、書く練習だけに限定しません。
例えば、
- 塗る活動
- 手先を細かく使う活動
- 洗濯ばさみを使う活動
などを取り入れることがあります。
ここでも、特定の活動をすればDCDが改善する、と言いたいわけではありません。
本人がどの動作で困っているかを見ながら、その要素を経験しやすい活動を考えていきます。
「書いて学ぶ」と「書く練習」を分ける
ここは、私が特に大切だと考えているところです。
例えば授業の目的が、
「文章の意味を理解すること」
だったとします。
そこで書字そのものに大きな負荷がある子に、大量に書くことまで同時に求めると、本来学びたかった内容に十分取り組めなくなることがあります。
そのため、
学習内容を理解すること
と
書字動作を練習すること
を分けて考えることがあります。
枠を意識する練習なら、書く内容は簡単にする。
文字の内容を考える学習なら、書く負担を減らす。
一度に全部を求めるのではなく、
「今、何を練習しているのか」を明確にする
ことが重要だと思っています。
書字の難しさをさらに細かく見る方法については、「文字を書くのが苦手な子、何につまずいている?|支援につなげる5つの見方」でも整理しています。
「練習不足」「不器用」「雑」で終わらせない
DCDのある子について、
「練習が足りないんじゃない?」
と言われることがあります。
私は、練習量がまったく関係ないとは思っていません。
どのくらいその活動を経験してきたのか。
どのくらい実際に取り組んできたのか。
技能を身につけるためには、回数や経験量が必要なこともあります。
ただ、
「単に練習不足なだけ」
で終わらせるのは違うと思っています。
国の発達障害ナビポータルでも、DCDの困難を努力不足として捉えず、発達特性を理解したうえで支援することの重要性が示されています。[1]
同じように、
「不器用だから」
「丁寧にやろうとしていない」
「字が汚いのは雑だから」
と見えることもあります。
表面的には、確かに「雑」と表現したくなる状態かもしれません。
でも、
「では、なぜ雑になっているのだろう?」
と、もう一歩深く見ていく。
私はそこが大切だと思っています。
「丁寧にできない」という結果ではなく、
丁寧にするための何が難しいのか
を探します。
「やればできる」ためには、大人側の工夫も必要
私は、子どもができることを増やしていく可能性は大切にしたいと思っています。
ただし、
「やればできるんだから、もっと頑張ろう」
と本人だけに求めるわけではありません。
子ども側が練習することも必要です。
同時に、
- 道具を変える
- 課題を小さく分ける
- 難易度を調整する
- 一度に求めることを減らす
- 成功しやすい方法を探す
など、大人側にもできる工夫があります。
本人だけを変えるのではなく、
本人が力を出しやすい条件を一緒に作っていく
ことが支援だと思っています。
失敗が続くと、「やらない」という姿になることもある
運動や手先の難しさがある子を見ていると、
- やりたがらなくなる
- 失敗を避ける
- 最初から「できない」と言う
- 周囲と比べて自信をなくす
- 体育や制作活動への参加を避ける
といった姿を見ることがあります。
DCDでは、運動面だけでなく、自己効力感や学校生活のQOL、友人関係など心理社会的な側面への影響にも注意が必要だとされています。[1][3]
だから、
「できないって言って、やろうとしない」
という姿だけを見て、
「やる気がない」
と決めるのは早いかもしれません。
その子は、それまでに何度も失敗してきたのかもしれない。
周囲と比べてきたのかもしれない。
「また失敗する」と感じているのかもしれない。
そうした背景も含めて考える必要があります。
関連記事
- 「発達障害とは?|ASD・ADHD・SLDなどの基本と支援で大切なこと」
- 「文字を書くのが苦手な子、何につまずいている?|支援につなげる5つの見方」
- 「限局性学習症(SLD/LD)とは?|読み・書き・計算の困難を知る」
参考にした公的・専門的情報
医学・診断に関する一般情報は、以下の公開資料を確認しています(資料確認日:2026年10月3日。2026年10月2日までに公表された資料を照合)。本文中の「私」として述べている観察や支援例は、ゆうた先生本人への取材に基づくもので、DCDのあるすべての子どもに共通する特徴・効果を示すものではありません。
- [1]国立障害者リハビリテーションセンター 発達障害情報・支援センター「発達性協調運動症」
- [2]日本小児神経学会「神経発達症にはどのような疾患が含まれますか?」
- [3]Blank R, et al. International clinical practice recommendations on developmental coordination disorder. Developmental Medicine & Child Neurology, 2019.
発達支援・特別支援教育の実践家|ゆうた先生
特別支援教育・発達支援の現場経験をもとに、「子どもの行動には理由がある。見方が変われば、支援が変わる。」を軸として、子どもの姿の見方と具体的な支援を発信しています。
身体の動きは、体育だけのものではない
最後に、一番伝えたいことがあります。
身体の動きは、単に運動をするためだけに必要なものではありません。
私が現場で、身体の動きの難しさが生活に影響していると感じるのは、
- 食事
- 書字
- 道具操作
- 遊び
- 体育
- 制作
など、さまざまな場面です。
DCDについて考えるとき、
「運動が苦手な子」
という一言で終わらせないこと。
生活の中で、
その子は何をしようとしていて、どの動きで困っているのか。
そこまで細かく見ていくことが大切です。
運動も見る。
手先の操作も見る。
書字も見る。
遊びも見る。
道具も変えてみる。
課題の出し方も変えてみる。
一つの方法だけで何とかしようとせず、さまざまな方向から、その子が参加しやすい方法を探していく。
それが、DCDのある子どもの支援を考えるときに大切な視点だと思っています。
子どもの行動には、必ず理由があります。まずは、その背景を見るところからスタートしてみてください。

