3分で基礎が分かる|発達支援・特別支援教育 基礎知識辞典 第7回
「ことばがなかなか増えません」
「質問にうまく答えられません」
「大人とは話せるけれど、友達との会話になるとうまくいきません」
子どものコミュニケーションについて、こうした相談を受けることがあります。
そんなとき、私はまず「どのくらい話せるか」だけを見ないようにしています。
どのくらい言葉を理解しているのか。
どのような場面でうまくいかないのか。
質問されたときはどう反応するのか。
自分からはどんなことを話しているのか。
こうしたところを一つずつ見ていくと、その子のコミュニケーションの全体像が少しずつ見えてきます。
この記事では、「コミュニケーション症群」の基本と、実際に子どもを見るときに大切にしたい視点を整理します。
この記事の要点
- 「コミュニケーション症群」は、一つの病名ではなく複数の状態を含むカテゴリーです。
- 「話せるか」だけでなく、理解と表出の両方を見ることが大切です。
- コミュニケーションの難しさは、場面や相手によって変わることがあります。
- 特に同年代とのやり取りでは、話題の共有、相手の話を聞くこと、意図をくむことなど、複数の力が求められます。
- 支援では、発話だけでなく、選択肢・文字・ジェスチャー・指差しなども使えます。
- コミュニケーションが苦手なことと、コミュニケーションをしたくないことは別です。
コミュニケーション症群とは?
DSM-5-TRでは、「コミュニケーション症群」は神経発達症群の中に位置づけられています。日本語版では、主に言語症、語音症、小児期発症流暢症(吃音)、社会的(語用論的)コミュニケーション症などが含まれます。単一の病名ではなく、異なる難しさを含む診断カテゴリーです。[1][2]
神経発達症の全体像は、基礎知識辞典 第1回「発達障害とは?」でも整理しています。
言語症
言葉を理解したり、言葉を使ったりすることに持続的な難しさがある状態です。
語彙、文の組み立て、文章や会話として内容をまとめることなどに難しさが表れることがあります。理解する側に難しさがある場合も、表現する側に難しさがある場合もあります。[2][3]
語音症
ことばの音を正確に作ることに難しさがあり、相手に聞き取りにくくなるなど、コミュニケーションや生活に影響することがあります。[2]
小児期発症流暢症(吃音)
話すときの流れやタイミングに難しさがみられる状態です。音や音節を繰り返す、音を引き伸ばす、ことばが出るまで詰まる、といった特徴がみられることがあります。[2]
吃音については特徴や支援上の配慮が異なるため、基礎知識辞典の別の記事で詳しく扱います。
社会的(語用論的)コミュニケーション症
言語的・非言語的なコミュニケーションを、社会的な場面で使うことに持続的な難しさがある状態です。
例えば、
- 場面や相手に合わせて話し方を変える
- 会話の順番を調整する
- 話題を維持する
- 相手に伝わらなかったときに言い換える
- 明確には言われていない意味をくみ取る
といったところに難しさが表れることがあります。[4]
ここで挙げた特徴だけで診断することはできません。発達経過、生活への影響、言語や聞こえの状態などを含め、医師や言語聴覚士などの専門職が総合的に評価します。
ASDとは同じではない
社会的コミュニケーションの難しさは、ASDでも重要な特徴の一つです。
ただし、ASDでは社会的コミュニケーションの難しさだけでなく、限定された・反復的な行動、興味、活動なども診断上の重要な特徴になります。[4]
社会的(語用論的)コミュニケーション症とASDは、社会的なやり取りだけを見て単純に区別するものではなく、発達経過や行動の特徴を含めて専門的に評価します。社会的(語用論的)コミュニケーション症は、ASDではより適切に説明できないことを確認して判断するもので、ASDと同じ診断ではありません。[4]
ASDの基本は、基礎知識辞典 第2回「自閉スペクトラム症(ASD)とは?」で解説しています。
まず、「どのくらい理解できているか」を見る
私がコミュニケーションの相談を受けたとき、最初に見たいのは、その子がどのくらい理解できているのかというところです。
例えば、
- 生活の中で使う単語をどの程度理解しているか
- 普段のやり取りで使われる言葉を理解しているか
- 文章になるとどのくらい理解できるか
- 質問されたときにどんな反応をするか
- 自分からどんなことを話しているか
などを見ます。
一つだけを見るのではなく、こうした様子を合わせていくことで、全体像を考えます。
「話せない=分かっていない」ではない
ここは、とても大切です。
言葉でうまく話せないからといって、
そのまま「理解できていない」と考えることはできません。
理解することと、言葉として表現することは分けて見る必要があります。一方で、「話せない子は理解している」と逆方向に決めつけることもできません。理解面にも難しさがある場合があるため、その子ごとに確認します。
反対に、たくさん話しているからといって、相手の話や質問を十分理解できているとは限りません。
そのため、理解と表出の両方を見ることが必要です。
- 理解|受け取る
- 言葉や文章、質問をどのくらい理解しているか。
- 表出|伝える
- 自分の要求や気持ち、考えをどのように伝えているか。
- 社会的なやり取り|相手とつなぐ
- 相手と話題を合わせ、相手の話や意図を受け取れるか。
「コミュニケーションが苦手」を、具体的な場面に分ける
次に私は、「どんな場面で、うまくいかないと感じていますか?」と詳しく聞きます。
例えば、
- 自分の要求を伝える
- 質問に答える
- 気持ちを伝える
- 友達と話す
- 集団の中でやり取りする
では、それぞれ必要になる力が違います。
「コミュニケーションが苦手」という言葉のままでは、どこを支援すればよいのか分かりにくい。
だからこそ、どの相手と、どの場面で、何が難しくなっているのかまで具体的にしていくことが大切だと思っています。
特に見たいのが「同年代とのやり取り」
私が現場で特に難しさを感じることが多いのが、同年代の子ども同士でのやり取りです。
大人とは比較的やり取りができていても、友達同士になると難しくなることがあります。
例えば、
- 相手と話題を合わせる
- 相手の話を聞く
- 相手が何を伝えようとしているのかをくむ
といった部分です。
同年代との会話は、その場で相手の反応を見ながら、自分の言葉や行動も随時調整していかなければなりません。
社会的コミュニケーションでは、話題の維持、会話の順番、文脈に合わせた伝え方、非言語的な情報の理解など、複数の要素が関係します。[4]
大人が「橋渡し役」になる
子ども同士のやり取りが難しいとき、
「自分たちで話してみて」
とすべてを任せるだけでは、うまくいかないことがあります。
私は普段、
- 大人が間に入る
- 必要な言葉を補う
- 相手の気持ちや意図を具体的に伝える
- 今起きているやり取りを整理する
といったことをします。
大切なのは、大人が代わりに会話することではなく、子ども同士でやり取りできるように橋を架けることだと思っています。
ずっと大人が間に入るわけではない
橋渡しをするときも、私は最初から最後まで入り続けるわけではありません。
大人の橋渡し 4ステップ
- スタートを支える|やり取りの始まりには大人が入る。
- いったん引く|やり取りが始まったら、一度引く。
- 様子を見る|子ども同士のやり取りを見る。
- 必要なときにつなぐ|必要な部分だけ再び仲介する。
この流れを意識しながら、その場で必要な支援量を調整します。支援をゼロにすること自体を目的にはしていません。
最初のきっかけだけ作れば、その後は二人で続けられることもあります。
そのときまで大人が話し続けてしまうと、子ども同士でやり取りする機会が減ってしまいます。
一方で、うまくいかなくなっているのに、
「自分たちで解決して」
と完全に任せる必要もありません。
できる部分は任せ、必要なところだけ支える。
その加減を見ています。
「もっと話す練習をすればいい」で終わらせない
コミュニケーションが苦手な子を見ると、
「もっと話す練習をした方がいい」
と思うことがあります。
もちろん、言葉を使う経験や練習が必要なこともあります。
ただ、私はそれだけで考えないようにしています。
なぜなら、うまくいかない理由が、
- 相手の言葉を理解しにくい
- 質問の意味を取りにくい
- 自分の考えを言葉にまとめにくい
- 相手との話題を合わせにくい
- その場で必要な言葉が出てきにくい
など、さまざまだからです。理解、表出、質問の意味、相手、場面、関係性、社会的なやり取りを合わせて見ます。
「話せないなら、もっと話させる」だけでは、その子が本当に困っているところと支援がずれる可能性があります。
話すことだけがコミュニケーションではない
言葉で伝えることが難しいとき、私は普段、
- 選択肢
- 文字
- ジェスチャー
- 指差し
なども使います。
国立特別支援教育総合研究所は、災害時の配慮をまとめた資料の中で、発音が不明瞭で伝わりにくい場合に、文字や絵・写真、指差しによる選択などで、伝えたいことを確認する方法を紹介しています。[6]
AAC(拡大・代替コミュニケーション)は、発話を補ったり、発話に代わる方法を使ったりすることです。ジェスチャー、文字、写真や絵への指差し、コミュニケーションボードなども含まれ、タブレットや専用機器だけを指すものではありません。[5]
大切なのは、「声で言えたか」だけではなく、「本人が伝えられたか」を見ることだと思っています。
助けを求める場面については、「子どもが『困った』と言えないときに|助けを求められる関係を育てる4ステップ」も参考にしてください。
教育でいう「言語障害」とは少し整理が違う
学校教育や特別支援教育では、「言語障害」という言葉も使われます。
国立特別支援教育総合研究所では、発音の不明瞭さ、吃音、言葉の理解や言語概念形成のつまずきなどによって、コミュニケーションや社会生活に不都合が生じている状態を広く説明しています。[6]
これはDSM-5-TRの「コミュニケーション症群」という診断カテゴリーと、一対一でそのまま対応するものではありません。
医療上の診断分類と、教育・支援で使われる用語は、目的や分類方法が異なる場合があります。
コミュニケーションが苦手=関わりたくない、ではない
最後に、一番伝えたいことがあります。
コミュニケーションが苦手なことと、コミュニケーションをしたくないことは別。
言葉がうまく出てこない。
質問にうまく答えられない。
友達と話題を合わせるのが難しい。
相手の意図をくみにくい。
そうした難しさがあることと、人と関わりたいかどうかは別です。これは、私が大切にしている「苦手なことと、やりたいかどうかは別」という考え方にもつながります。
もちろん、一人で過ごすことを好む子もいますし、人との距離感にはそれぞれ違いがあります。すべての子が常に交流を望むと考えず、本人が好む距離感や関わり方も尊重します。
だからこそ、
「この子は人と関わりたくないんだ」
と大人が先に決めるのではなく、
本人は何を伝えたいのか。
どの方法なら伝えられるのか。
どの条件ならやり取りしやすいのか。
を見ていくことが大切だと思っています。
コミュニケーションが難しいときほど、
「もっと話して」
と求める前に、その子が理解していること、伝えようとしていること、そして伝えやすい方法を探していく。
子どもの行動には、必ず理由があります。まずは、その背景を見るところからスタートしてみてください。
参考にした公的・専門的情報
- 医学書院『DSM-5-TR 精神疾患の診断・統計マニュアル』日本語版(出版社公開目次・用語)
- American Psychiatric Association「Communication Disorders」
- ASHA「Spoken Language Disorders」
- ASHA「Social Communication Disorder」
- ASHAの一般向け案内から移行したCHSA「Augmentative and Alternative Communication (AAC)」
- 国立特別支援教育総合研究所「言語障害のある子どもへの配慮」(災害時の配慮に関する資料)
医学・診断に関する一般情報は、公的機関・専門機関等の公開資料を確認しています。本文中の実践例や支援の考え方は、私自身の発達支援・特別支援教育の現場経験に基づくものです。すべての子どもに一律に当てはまるものではありません。
発達支援・特別支援教育の実践家|ゆうた先生

