「何度言っても、なかなか動いてくれない」
「やってはいけないと分かっているはずなのに、また同じことをしてしまう」
子どもと関わっていると、そんな場面があります。
あとから聞いてみると、「分かっている」と答えることもあります。どうすればよかったのかを、自分の言葉で説明できる子もいます。
それでも、実際の場面では行動できない。
私は、「分かっていること」と「行動に移せること」は、同じではないと考えています。
行動に移すことは、分かっているところから、もう一段先へ進むようなイメージです。ただし、その一段は、本人のやる気や努力だけで越えられるものではありません。
ゆうた先生こんにちは♪ゆうた先生です。今回は、「分かっているのに動けない」とき、子どもの中で何が起きているのかを一緒に考えていきましょう。
「分かる」だけでは、行動できないことがある
実際に行動するためには、言われたことを理解するだけでなく、
- 必要な場面で思い出す
- 今していることを一度止める
- 気持ちや身体の動きを切り替える
- 次にすることを選ぶ
- 最初の一歩を踏み出す
といった、いくつもの力が必要です。
専門的には、こうした力には「実行機能」が関係すると考えられています。実行機能には、必要な情報を一時的に覚えておく力、衝動的な行動を止める力、状況に応じて行動や考え方を切り替える力などが含まれます。実行機能に関する研究でも、これらの力が目的に沿って行動するために必要だと整理されています。
また、幼児を対象とした研究では、正しいルールを言葉で答えられているにもかかわらず、実際の場面では前のルールに従って行動してしまうことが示されています。つまり、「言えること」と「その場で使えること」の間には、もともと差があるということです。(ルールの理解と実行の違いに関する研究)
子どもが分かっているのにやらないのではなく、「分かってはいるけれど、その場で使える状態になっていない」ということもあるのだと思います。



「分かっているなら、できるはず」と考えると、大人も子どもも苦しくなってしまいます。できない理由を責めるのではなく、動きやすくなる条件を探していくことが大切ですね。
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楽しくなると、分かっていたことが飛んでしまう
子どもは、落ち着いているときには分かっていても、遊びが楽しくなったり、気持ちがカーッと高ぶったりすると、自分の行動を止めることが難しくなります。
「廊下は歩く」と分かっていたけれど、友達と一緒になったら楽しくなって走ってしまった。
「優しく触る」と分かっていたけれど、夢中になって力が強くなってしまった。
「おしまい」と言われたことは分かったけれど、遊びを止めて片づけに移ることができなかった。
こうしたことは、話を聞いていないから起きているとは限りません。
楽しい、悔しい、嫌だ、もっとやりたいといった気持ちが大きくなると、頭で分かっていたことよりも、その瞬間の気持ちや身体の動きが先に出ることがあります。
大人でも、「分かっているけれど、ついやってしまう」ということがあります。子どもであれば、なおさら難しいこともあると思います。
「動かない」を一つの理由で考えない
子どもが動かないときは、まず、どこでつまずいているのかを考える必要があります。
そもそも理解できていない
言葉が長かったり、表現が曖昧だったりして、何をすればよいのかが十分に伝わっていないのかもしれません。
「ちゃんとして」「早くして」「優しくして」と言われても、具体的に何をすればよいのか分からない子もいます。
分かっているけれど、納得できていない
何をするのかは分かっていても、「なぜ今やるのか」「いつまで続くのか」「このあと何があるのか」が分からず、気持ちが次の行動へ向いていないことがあります。
また、活動そのものに不安がある、難しすぎる、刺激がつらい、まだ続けたいという場合もあります。
ここでは、子どもを納得させることだけを考えるのではなく、本人が何を嫌がり、何に困っているのかを確認することが大切です。
理解も納得もしているけれど、行動に移せない
何をすればよいかも、その理由も分かっている。それでも、今していることを止めたり、気持ちを切り替えたり、最初の一歩を踏み出したりすることが難しい子もいます。
この場合、同じ言葉を繰り返すだけでは、行動の改善にはつながりにくいと思います。
さらに、そもそも大人が求めている行動が、その子にとって本当に必要で無理のないものなのかも、見直さなければなりません。
子どもだけに原因を求めるのではなく、活動の難しさ、伝え方、周囲の刺激、時間の設定、職員や保護者の関わり方など、環境側も一緒に考える必要があります。
※こども家庭庁の児童発達支援ガイドラインでも、子どもの特性に合わない環境や働きかけを見直し、活動を制限しているバリアを取り除くことが重視されています。
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言葉を増やすよりも、見て分かる形に変えるだけで、動きやすくなる子もいます。その子に合う伝え方を探してみてください。
言葉だけでなく、見える形で伝える
言葉で一度説明し、その場で「分かった」と答えられたとしても、それだけで実際の行動につながるとは限りません。
特に、言葉で聞いた情報を覚えておくことや、必要な場面で思い出すことが難しい子には、見える形で伝えることが役立つ場合があります。
例えば、
- 絵や写真で、次にすることを示す
- 活動の順番を予定表で見せる
- 片づける場所を写真や色で分かりやすくする
- 大人が実際に見本を見せる
- 最初の一つだけ一緒に始める
といった方法です。
自閉スペクトラム症のある子どもを対象とした研究では、視覚支援、見本を見せること、必要な促しを行うこと、活動前に環境を整えることなどが、根拠のある支援として整理されています。(自閉スペクトラム症のある子どもへの支援に関する研究レビュー)
ただし、絵や写真を使えば必ず分かるわけではありません。
実物の方が分かりやすい子もいれば、写真、イラスト、文字の方が分かりやすい子もいます。その子が何を見て理解できるのかを確認しながら、方法を選ぶことが大切です。



一度に全部できなくても大丈夫です。「止まれた」「少し切り替えられた」という小さな変化を、一緒に見つけていきましょう。
できた瞬間を、具体的に伝える
できなかったときに何度も注意するだけでは、子どもは「次にどうすればよいか」を十分に学べません。
少しでも良い行動が見られた瞬間に、何ができたのかを具体的に伝えることが大切です。
「今、声をかけられて止まれたね」
「手の力を弱くできたね」
「写真を見て、片づけを始められたね」
「嫌だって言葉で伝えられたね」
完璧にできたときだけではなく、止まろうとした瞬間や、少し切り替えられた瞬間も大切にします。
具体的な称賛については、学校場面の研究でも、活動への参加を増やしたり、不適切な行動を減らしたりする可能性が示されています。(行動を具体的に称賛する支援の研究レビュー)
ただし、褒められることが、すべての子にとってうれしいとは限りません。
人前で褒められることが苦手な子もいます。大きな声で褒めるより、静かに伝えた方が受け取りやすい子もいます。
その子にとって分かりやすく、受け取りやすい方法で認めていくことが大切です。
言葉と身体の動きを近づける
これはすべての子どもに当てはまるわけではありませんが、私が関わってきた子どもたちの中には、動く速さや力加減を調整すること自体に難しさがある子もいました。
「ゆっくり」
「優しく」
「丁寧に」
「力を弱くして」
そう言われても、その言葉がどのような動きを表しているのか、本人の中で十分につながっていないことがあります。
そのような場合には、普段の遊びや活動の中で、
- ゆっくり歩く、速く歩く
- 強く押す、弱く押す
- 物をそっと置く
- 大人のゆっくりした動きをまねる
- 同じ動きを「強く」「弱く」と変えてみる
といった経験を取り入れることがあります。
これは、「ゆっくり動く練習をすれば、すべての行動が改善する」ということではありません。
言葉と実際の動きを結びつけ、その子が自分の身体を調整するための選択肢を増やしていく。そのための一つの方法として考えています。
気持ちが高ぶる前に支える
楽しくなりすぎたり、気持ちがカーッとなったりしたあとに、周囲から注意されてすぐに自分の行動を修正することは、とても難しいことです。
そのため、気持ちが大きく高ぶってから注意するだけではなく、高ぶる前の段階で支えることが重要になります。
落ち着いているときに合図を確認しておく。
活動の約束を見える形で示しておく。
少し興奮が高まってきた段階で、休憩や別の動きを提案する。
声をかけられて少し止まれたときに、その瞬間を認める。
そうした小さな経験を重ねながら、少しずつ自分で戻れる力を育てていきます。
そして、子どもだけでなく、関わる大人が自分の心に余裕を持つことも大切です。
「またやった」
「何度言えば分かるの」
大人も余裕がなくなると、声が大きくなったり、必要以上に言葉を重ねたりしてしまいます。
一度待つ。言葉を短くする。声の大きさを少し落とす。周囲の刺激を減らす。
大人が自分の気持ちや関わり方を整えることも、子どもの自己調整を支えるために必要なことだと思います。
もちろん、大人が落ち着けば、必ず子どもも落ち着くという単純な話ではありません。それでも、子どもが戻ってこられる環境をつくるために、大人側の余裕は大切です。
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できた瞬間を具体的に伝えるヒント。
「分かっているのに」と感じたときこそ
子どもが動かないとき、同じ言葉を何度も繰り返す前に、一度立ち止まって考えてみることが大切です。
理解できていないのか。
分かっているけれど、不安や負担があるのか。
理解も納得もしているけれど、行動に移すことが難しいのか。
周囲の環境や伝え方に、分かりにくさはないか。
本人は、その活動についてどう感じているのか。
つまずいている場所が違えば、必要な支援や関わり方も変わります。
大人の指示どおりに動けることだけが、支援の目的ではありません。
子ども自身が、自分の気持ちや身体の状態に気づき、困ったときには助けを求め、少しずつ自分に合った方法で行動を調整できるようになることが大切です。
「分かっているのに、なぜ動かないのだろう」
そう感じたときこそ、子どもを責めるのではなく、「分かる」から「できる」までのどこに支えが必要なのかを、一緒に考えていきたいと思います。
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